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自作の小説等を置いていったり、読了した本の感想をほんの少し書いたりしていきます。
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四章、眠る真実……其の二


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 受付で待っていると、一人の男が話しかけて来た。体つきのいい、背の高い男。……神田だ。
「よう、叶田くん。その後の調子はどうだい? 何か、思い出せたりしたか?」
「……調子はいいです。でも、何も思い出せはしてません」
「……そうか。ちょっとこっちの部屋へ来てくれるか? 許可はとってあるから」
 神田は、やや強引に僕を近くの部屋へ連れこんだ。そして、古くなり、布が所々破けているような椅子に座るよう促し、自分も同じようなイスに座る。
「悪いな。警察官だから仕方ない。……記憶が無いって言っても、生き残ってるのが君だけなんだ。君自身こそが唯一の手掛かり。あの事件を解決に導く、手掛かりなんだよ」
「それは、僕も、……分かってるんですが」
 それでも、思い出せない。あの日は幸せな一日でした。その言葉が記憶に蓋をし、閉ざしている。真実を知りたいと思っているのに、その蓋を僕は、開けられない。
 何故だろう――。
「……叶田くん。顔が暗いぜ。……きっとそれが、思い出せない原因だよ」
「え……?」
 思いがけず、神田がそんなことを言った。……心が読めるのか、と疑ってしまった程だ。
「……君は、真実を知ることに、まだ何か抵抗があるんじゃないのか。どう思っているのかは知らないが、そのせいで、本当の記憶に蓋をしてしまってるんじゃないか……?」
「抵抗……ですか」
 そんな筈はない。……そう心の中で呟いてはみたものの、自信はなかった。……どうしてだろう? 僕は、何かが不安なんだろうか。真実を知ることに、何か不安があるのだろうか……?
 ……あ、……そう、だ。
「……メス、だ……」
「メス? ……あの、凶器のか?」
「ええ。……僕、きっと怖いんです。……あのメスに、七人全員の指紋が付いているっていってたでしょう? だから、もしかして、……その、僕が、皆を殺した犯人なんじゃないだろうかって、きっと心の何処かで、……思っているのかも……しれません……」
 実際にそう思って口にしたという感じではなく、口を開いたら自然に出てきてしまった。……そんな感じの吐露だった。……そうだ。僕はきっと、それが怖かったんだ。僕自身が犯人であるという可能性に、きっと怯えていたんだ……。
「……なら、大丈夫さ」
「な、何でですか……!」
 僕が返すと、神田は、にやりと笑って、言った。
「事件に巻き込まれて、悲しみと苦しみで記憶を無くして、今もそうやって苦しんでる奴に、殺人なんか出来るかってんだ」
「……神田、さん……」
「叶田くん。君は優しい奴なんだよ。……だから、必要以上に怯えてるんだ。他の奴に罪を求めるのが嫌だから。自分が犯人という可能性を考え、そして苦悩する……。……そんな君が犯人なわけがない。君みたいな奴が、大切な仲間を殺せる筈が無いんだ……」
 神田さんから、そんな言葉をもらうとは思わなかった。僕は、気づかぬ内に涙を零していた。……警察官が、そんなことを言うなんて。……でも、神田さんらしい。……性格が合わなさそうだと初対面の時は思ったが、それは撤回しよう。この人は、とても温かい人だ……。
「……そうなのかも、しれません。僕は、あの時覚悟した筈でした。幸せな夢を壊してでも、真実を知ろう、と。……でも、正直なところ、あの六人の中に犯人がいるだなんて、とても思えない。誰もが優しい僕の仲間だったんです。……だから、その六人に罪を求めることができなくて。じゃあ残るのは僕一人で。でも、僕がもしあの六人の命を奪ったんだとしたら……そう考えたら、恐ろしくてたまらなくて。でもやっぱり、他の皆に罪があるとは思いたくない。そんな二つの苦しみの狭間に、自分自身を追い込んでいたんだと思います……」
「……仕方のないことだ。……叶田くん。……そして、本当の覚悟は、出来たか?」
「…………」
 本当の覚悟。何が待ち受けていても、逃げずに、それを知る。思い出す。例え誰が、犯人だったとしても。……仮にそれが僕であれ、……他の六人であれ……。
 夢に出て来た、僕の影が、静かに囁きかける。
 ――本当に、いいのかい? 幸せな一日を、君の手で壊すのかい?
「……それでも」
 僕は、力を込めて、言った。
「知らなきゃいけないことだ。皆の為にも、残された人の為にも。そして僕自身の為にも……」
「……そうだ。その通りだ」
 神田は、優しく笑いかけてくれた。僕も彼に笑い返す。それは、強がりにも似た笑みなのかもしれないけれど。……これより先、決して僕は、逃げないでいたい。その気持ちは、確かだった。
「……事件について、もうすこし詳しく聞かせてください。状況を聞いたら、思い出すきっかけになるかもしれません」
「おう。そういえば事件を一から説明してはいなかったな。分かった。順を追って説明してくぜ」
「はい」
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――異色ミステリ。その日は幸せな一日だったのか。主人公、叶田友彦は、自らに問う。
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