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自作の小説等を置いていったり、読了した本の感想をほんの少し書いたりしていきます。
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#9. Divertimento _暴かれる悪意_3

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 朝霧は、終礼の時にわざと関先生の後をついていき、犯行が全員に即座に分かるようにした。そしてその後犯人を探せと叫び、密室であることを確認させる。
 そして零音が自宅確認を促した時に、警察の田丸の死体を発見し、拳銃を盗んだ。殺人者が、銃がないと言っていたのは、朝霧が取っていたからだ。
 その後、犯人がトイレに仕掛けた爆弾を、木戸が見つけ外に放る。そして木戸は殺される。…その時も、木戸以外がトイレに行くなら止めようと思っていた。
 そして爆弾を回収。全員で籠城を開始した。自分は最も窓から遠い位置に座って。
 東の家に電気がついているのを知っていて、朝霧は作戦を提案する。そして、二手に分かれる。
 帰ってきた後は、零音が言った通り、爆弾を仕掛けた。
 そして、全員を散り散りにさせた…。

「…まさか、自分のやることが、こんなに上手くいくなんてね…。どこかで失敗して、…止まれば、よかったのに…」
 終わったこと、そう言いつつも、やはり、後悔だけは、残り続ける…。
 終わらないのだ。残された者の、心の苦しみだけは。永遠に…。
「殺人者、いたでしょう? あの、包帯で口元を隠した」
「ああ…」
 突然、朝霧は言う。彼がどうしたというのか。
「彼もね、大切な人を殺された人なんですよ。…確か、大学が襲撃されたらしくて。…彼一人が、生き残ったって言ってましたね」
 それを聞いて、零音は驚く。あんな恐ろしい殺人者にも、そんな過去があるなんて…。
「違いますよ、芹沢くん。…人を狂わせるのは、過去のキズなんです。…それが深ければ深いほど、人は狂っていくんです…。彼もまた、僕と同じようなものでした。だから僕は、…彼を、分かってあげられる気がするんです」
 朝霧は笑う。涙を流しながら。…悲痛な笑みだった。
「…朝霧。…もう、やめて…くれるよな」
 零音が言った。…もう、この殺人劇は、幕を下ろすべきだ。…朝霧なら、分かってくれる。…もう彼と、自分しかいない。…それでも、やめるべきだ。…自分達には、…たとえどれほど辛くとも、明日が待っている……。
「…やめますよ。僕は」
 朝霧が、呟いた。…それは肯定なのだろうが、なにか意味深だった。
「……そうか……。…なら、…もう銃なんて捨ててくれ」
 朝霧の右手に持っている銃を指さす。…抵抗もせずに、朝霧はそれを捨てた。
「……芹沢くん」
 変に優しい声で、朝霧は声をかける。それは、こんなことをしても無駄だという、…そんな諦めのうかがえる…。
「…諦めるなよ。お前にだって、明日は来る。…お前はまだ、やり直せるよ……どんなに辛くても。……ああ、それなら俺も、やり直せるのかな……」
 自分の言葉に、自答する零音。雪が殺されて死にたいと思っていた自分が、今は分からなくなる…
「違います、芹沢くん。…これは、そんな諦めじゃ、ないんですよ……」
 朝霧の声は、震えていた。…何かに、怯えているのだろうか。
「…?」
 その怯えの意味が、零音には分からない。もうここには、自分と朝霧以外、誰も生きてはいないはずなのだから。
 しかし、…朝霧の声は相変わらず震えたまま。
「…これを言ってしまえば、芹沢くんは、全部を、理解すると思います。僕も全ては知らない。その、最後の真実の一部分だけ。それを…、芹沢くんに言っておこうと思います」
 朝霧が、意味深にそう言う。それは何なのだろうか。まだ、全てが終わっていないとでも言うのだろうか。
「……なんのことだよ、一体…」
 怯える事じゃない。そう思いながらも、やはり聞くのが怖くなる。…零音の顔は、強張る。
「芹沢くん。職員室は、密室でしたね。…どういう推理をしましたか?」
 職員室の密室。いきなりそれについて聞かれても、中々答えづらい。
「え、…? えっとな…合い鍵か、…窓にスキマがあれば変な道具使って鍵かけられたかも…とかだな…」
 実際、考えられたのはこんなものだ。自分の頭はあまり良くないな、と言いながら思う。
「……もっと、単純な答えがあるんですよ。本当に簡単な答えが、ね」
 朝霧は目を逸らした。…その言葉が意味することは、一体…。
「そして。君は何度、助けられましたか?」
 次の質問は、分からなかった。…一体なぜ、そんなことを聞くのか…。
「色んな奴に、助けられたさ。…先生にも、水谷にも、東にも、さ……。皆、必死に戦ってくれたよ……」
 先生は俺を引っ張り、水谷と東は敵を倒し。…思えば零音は、ずっと助けられてきた。…情けなさで胸が痛む…。
「最後に。…僕は、兄さん以外は殺していません」
「え…、…え?」
 それが一番、理解できなかった。
つまり、どういうことだろう。……雪、は? 先生は?
「…それが僕に言えるヒントです。…そして、僕は…」
 朝霧は震えながら、校舎の方を見る。ここは校舎裏の雑木林だ。だからここから校舎を見れば、窓から廊下が見える。
 しかし、誰もいるはずがない。…二人だけしかいないのだから。
「芹沢くん」
 朝霧が、呼ぶ。
「何、だ…?」
 得体のしれない恐怖が、湧きあがってくる。
「あの人の心のキズも、癒してあげてください」
 そして、朝霧は笑った――。

「朝霧ッ!?」
 窓が吹き飛ぶ。そして欠片が零音の方へ飛び散った。しかし、零音はそれに構わない。朝霧が、…笑顔のまま、…血を、噴き出して、倒れたから…!
 間違いなく、銃で撃たれていた。つまり、校舎の向こう側から、誰かが朝霧に向かって発砲したということ…!
「だッ、…誰、だよ…! ありえない! そんな馬鹿な、誰が生きてるんだ! なんで朝霧が殺されなきゃいけないんだよ! なら俺は、なんで、狙われないんだ…!」
 思えば最初から、おかしい。どうしてか自分だけは、狙われないし、犯人に会ったとしても何度も紙一重で逃げだせたんだ。
 朝霧の言葉を思い出す。密室トリック? あの時は、そう、窓に鍵がかかってるって…。
 助けられた記憶。ピンチの時助けてくれたのは、…あ、ああ…!
 言葉のピースが全てはまる。彼女に全て、当てはまる…!
「…なッ、…なんで…!」
 信じられなかった。朝霧の時よりも。そんな馬鹿な。彼女が、全ての、……犯人だと、言うのだろうか…?
 認めたくない。拒絶の思いが、その場に金縛りにでもなったかのように立ち尽くす。…汗が噴き出してくる。
 そして、まだ零音は、撃たれない。まるで零音だけは殺せない、最後に残った犯人が、そう思っているかのように。
 怖い。認めるのがたまらなく怖かった。彼女はいつだって、…自分の、自分達の、味方だったじゃないか…。
「…ぁぁ、ううう…!」
それでも、零音は思う。
最後に一つしか、選択肢が残らないのなら。
それは必ず真実なのだ。
最後に残ったその一つが、真実なら。
彼女が、……犯人なのだ。
「そんなの、…嘘、だ…」
 この狂った一日の支配者が。…零音達の、大切な人。
 雪を奪った憎い殺人者が。…零音達の、大切な…。
 零音はゆっくりと、歩く。最後に残ったその真実を見るために。

 そして零音は、…全てを知る。
 

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