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自作の小説等を置いていったり、読了した本の感想をほんの少し書いたりしていきます。
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#9. Divertimento _暴かれる悪意_2



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 そこは、いつも暗かった。…何故なら、重なりあっている葉が、光を遮っているから。…そして校舎が外灯すらも遮ってしまうから。
「……優磨」
 ここは、零音と優磨の、大切な場所。あの手紙を残した場所なのだ。
 一本の木に触れる。この中で一番大きいものだ。…その幹には、セロテープが未だについている。…懐かしい、零音はそう思った。
 校舎裏の雑木林。零音は今、そこで待っている。彼を、待っている。
 やがて土を踏む音が聞こえる。…彼が来たのだろう。零音が振り返る。
「…」
 そこには、眼鏡をつけて、表情の読めない顔をする、いつもの彼の姿。
「…朝霧」
  朝霧陽次が、そこにいた。
「…芹沢くん」
 朝霧は、零音に近寄ってくる。それを零音は制止する。
「来るな。…もう、やめようぜ」
 零音の目は真剣だ。初めは微笑みを浮かべていた朝霧も、それを見て真面目な顔つきになった。
「あの紙を見て、犯人が誘ったんだと思って…芹沢くんを追って来たんですよ…? 一人で生き残れるはず、ないんですから。…僕だって怖いんです」
 白々しかった。こんな涼しい顔であの日から、嘘をついていたというのだろうか。
「追ってきた? 馬鹿言うなよ。俺はこのシェルターを全力で一周走ってからここに来たぜ? 運動音痴のお前が、その俺を追ってきたなんて言うなよ。分かってたんだよ、お前は。…最初から、あの言葉の意味する場所を」
 それは簡単なクイズだ。地上の緑は木のある場所。だから優磨は、零音だけにそのクイズを残した。…簡単だけど、零音にしか読まれたくない。だから万が一の場合を考えて、せめて分かりにくくなるようにと、クイズにしたのだ。
 朝霧程の頭があれば、簡単に理解できただろう。だが彼は、白々しくも零音を追ってきたと言った。…朝霧が、意味を考えもせずに追ってきたというのは、今まで朝霧と共に過ごしてきた零音にとっては、おかしなことだった。
「……偶然、学校の手前で芹沢くんを見たんですよ。だから……」
 まだ嘘を並べる朝霧。しかし、零音はもう分かっているのだ。…証拠はもう、十分すぎた。
「朝霧。もういいだろ。…あるんだ、目を背けられない現実が。…もう、分かってるんだよ…」
 零音は訴える。しかし、朝霧がそれを認めることはない。…最後まで、認めてはやらないということなのか。…なら、零音は全ての証拠を、知らしめるのみだ。
「…どうしても、認めないか」
「…何を言ってるのか」
 そして、悪意が暴かれる。

「…ええ。大人で生きてるのは、関先生だけのようです。…警察の田丸さんも、木戸くんの家付き近で発見されました。…死んでいました」
 朝霧は眼鏡を押さえながら、目を伏せる。

「あの時お前は言った。大人で生きてるのは関先生だけと。しかし、平山夫妻は生きていたんだ。そう、ボレアスとエウロスになって。…二人の素性がばれるとは思ってなかったんだよな、朝霧…」
 朝霧が顔をしかめる。しかし、それだけではまだ決定的ではない。
「いえ、僕は関先生だけのようです、そう曖昧に言いました。確認のとれていない人が生きていた可能性は、あるじゃないですか」
 その反論は、なるほど正しい。朝霧が全員を調べてから言ったと断定はできない。平山夫妻のことを忘れていた可能性もあった。
 しかし、まだある。

「実は、外を覗くと、時限爆弾のような物があったんです。タイマーは止まってましたが…。どうやら、それを見て外に投げ捨てようとして窓を開けたようです。」

「その爆弾は朝霧か犯人しか触れない。そして朝霧の家で爆発が起きた時、その前にお前は部屋に三十分近くいた。…爆弾を仕掛けていたんじゃないのか」
 それも決定的とはいかない。しかし、徐々に朝霧の顔に焦りが見え始める。
「外からでも爆弾はつけられます。中からつけたとどうして言えるんですか。犯人は外から爆弾をつけたんですよ」
「いや、本棚だ。外からなら本棚は廊下側に激しく吹き飛んだだろう。しかしそうならなかった。つまり、内側から爆発したんだ」
 偶然飛ばなかったという可能性もある。しかし、殆どの場合零音の言うとおり、爆風で飛ぶのは間違いない。
「…っ」
 朝霧が歯を食いしばる。
「そしてその後、ノトスは言った。『時間がかかったな、あいつめ』と。…お前が爆弾を仕掛けるのに手間取ったから言ったんだ」
「そんなこと、知りませんよ…。本当に言ったんですか?」
 まだ、反抗を続ける。しかし、苦しさは隠せない。
 だから最後に、突きつける。
 さっき見つけた、…形ある証拠を。

「ちなみに私の本名は能登一哉。」

『K.A』

 そして、ノトスの、いや、朝霧一哉の指輪が、零音の手の中にあった。
「ノトスは、自分の両親に会いたいと言った。そしてこの指輪のイニシャルはK.A。このシェルターでAがつくのは、東と朝霧の家だけ。…もういいだろ。…これ以上は言わなくても」
 朝霧は、沈黙する。そして、少し考えて一言だけ。
「…東くんの兄という可能性は」
朝霧らしからぬ、…気弱な、最後の反論だった。
「…ゼピュロスはノトスを、『いっくん』と呼んだ。それは一哉の字が一という字だからだ。…そしてお前は、朝霧陽次。次って、名前に入ってるだろ…」
 それは、朝霧の、最後の反論を、砕く。…もう、言い逃れはできない。…まず、第一に、ノトスと朝霧の顔は良く似ていた。だから東の兄などという可能性はまずないのだ……。
「…ふ。…ははは……」
 朝霧が、笑う。それは、…全てを認めたという、ことなのだろう。
 それを静かに見つめる零音。…朝霧の姿も、…他の犯人達と同じように、どこか悲しみに溢れていた。
「……芹沢くん。流石ですよ。…そこまで、完璧に拾われたら、…認めるしか、ないですよね。…僕が、メシアに関わっていたこと」
 朝霧が、零音に、笑いかける。…どうしてか零音にはそれが、今にもなきそうな子供に見えた…。
 そして、…朝霧陽次は、自らの罪を、零音に話し始める。
「僕は、ノトス…いえ、兄さんに三カ月ほど前に会いました。…状況は詳しく言いませんが、いきなり兄だと言われ、こっちも困りましたよ」
 朝霧がシェルターにやってきたのは八年前。今が十五歳なら、七歳の頃に別れた兄ということになる。
「いえ、裁判やらが長引いたので、…四歳のころから会ってませんね。その頃にはもう、強化された移民制度はあったんですが。…兄さんは有名学校の首席だったもんで、…一人特別に残されることになったんですよ…」
 そして今年。二人は再開する。かつて兄弟だった二人は、殺人者と、犯罪者という立場に変わっていた。
 何度か事件の計画を聞き、朝霧は快く承諾する。それは何故か。…既にその計画を、知っていたからだ。
「…芹沢くんは、僕がここに来たことで、察したんですね。…あの日の真実を」
 零音は、頷く。
「…優磨は、お前に殺されたんだろうな」
今度は朝霧が頷いた。
「…優磨は、仰向けなのに、後頭部から血を流して死んでたんだ。…忘れてたけど、…大事なことだったんだ、それは。優磨が自殺じゃないという証拠…」
 二年前のあの日の、真実。
「…ええ、僕はあの時からおかしくなったんです。…このシェルターが最初から消える運命。温かい日々は、散ってしまう運命。それを聞いて、おかしくならずにはいられませんよ。…はははは。…全てが、無価値に見え始めてきたんです」
 ついに朝霧の目から涙が流れる。…それは、…無価値だと言い捨てたその楽しい日々が、…本当はいかに大切だったかを訴えるかのよう。
「一つ言えることは、…平山くんは、本当に自殺しようとしていた、ということです。…彼は自分で石を持ってきて、グラウンドで静かに、その石を見つめていたんです」
 それを、朝霧は殺したのだ。優磨が死のうとしている時に、それを見つけ、…そして、殺した。…結果は、変わらなかったけれど。…朝霧は、彼を殺すことを選んだ。
「…どうして殺したのか、分からないんですよ。……酷く絶望したから。そう、最初は思ってたんです。このシェルターの運命に。……でも、考えたら、違いました」
 朝霧が、一息置いて、言う。
「平山くんが、…可哀相に、見えてきて…」
 ぎゅっと、拳を、握り締める。…それはどういう意味なのだろうか。
 もしかしたら、殺すのではなく、生かす道を、どうにかして選んでおけば、…何か変わったかもしれない。そんな葛藤なのだろうか…。
「可哀相なんですよ…! ここに来ただけで、生まれただけで、…なんでこんなに、悲しまなきゃならないんですか…! …僕は、ほんとに狂いましたよ。…それでついに、全て、諦めたんです…」
 そうして朝霧は、殺人をほう助する。…いや、全てサポートしていたわけではない。彼は双方が有利にも不利にもならないように、不要な事をたくさん行った。
 爆弾の爆発を意図的に遅くした。内部犯行を疑うような事を何度か言った。…犯人のほう助をしながら、犯人を妨害してもいたのだ。
「…なんというのか…。多分、誰かに止めてほしかったんですよ。諦めの中に、ほんの少しだけ希望があったんです。…もしかしたら、…幸せが一欠片だけでも、残るんじゃないかなって…」
 そして、仲間も、そして犯人すらも、皆死んでしまった。…むしろこれは、…本当に最悪の、結末なのかもしれない……。朝霧が最も望まない、いや、誰も望まない結末…。
「…ここまで、きちまったんだよ…朝霧。…諦めるのが、一番、だめなんだよ…。言ってくれよ、朝霧、止められたかもしれないじゃねぇかよ…ぅぅ…」
 零音は嗚咽を漏らす。…死んだのだ。消えたのだ。全て、…このシェルターから消えてなくなった…。
「…もう、済んだ事です。…もう、終わった事なんですよ……」
 朝霧も静かに、涙を流す。止まらない。…何度拭っても、止まらない…。
 事件は終わったのだろう。そして、残されたのは、少年二人。
 運命に絶望した少年と。
 誰一人救えなかった少年と。
 そんな二人に、かけられる言葉はない。
 いや、言葉をかける人は、もういない……。
 

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Battle Field――近未来系ミステリ。毒から身を守るために作られたシェルターの中で生きる人々。そんな世界の小さな村で、幼い彼らの元へ訪れる災厄。王道(?)のフーダニットです。
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――異色ミステリ。その日は幸せな一日だったのか。主人公、叶田友彦は、自らに問う。
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