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自作の小説等を置いていったり、読了した本の感想をほんの少し書いたりしていきます。
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#1.Overture_忘れようとした日_2


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「怪しい人がいたら、田丸さんに言うのよ?」
零音を見送りながら、母はそう言う。田丸さんは、ここに来ている警備員のことだ。
「わかってるよ、母さん」
そう言って、零音は学校へ歩き出す。
 正直言って、この本当に小さな村にも、事件の手が及ぶのか…半信半疑なところがある。第一、ナイフや銃を持った見知らぬ人がいれば、お互いの顔をよく知っているここの人が見逃すはずがない。…隠れるような場所もないのだから、来るならどうするのか見せてほしいくらいだ、と零音は思っている。
…そんなことを思って、自分の恐怖を和らげている部分もあるが。
 家から学校までは二十メートルほど。少し舗装されただけの道を歩き、一分もかからずに校門の前に着いてしまう。門の前には、一人の女の子が待っていた。
「おはよう、零音くん」
その、白い髪の女の子が手を振る。少し待たせてしまったようだ。零音もすぐにその子の所へ駆けだす。
「ちょっと遅れたよ。おはよう、雪」
「うん、おはよう」
ここで待ち合わせをしているのは、零音と彼女、そしてもう一人の友達の三人だけ。あまりに家が学校に近いので、この場所に集合しよう、ということになったのだ。
 彼女の名前は白井雪。その名前に相応しい、白い髪の女の子だったが、彼女も、村の子どもたちも、たった一度の雪も見たことはなかった。
服装自由の学校で、雪は一人だけ制服のような服を着ていた。あくまでそう見えるだけで、彼女にとっての私服らしいのだが。
「ずっと怖い夢ばっかり見るんだよなぁ…。早く忘れられればいいんだけど」
零音は雪に愚痴をこぼす。彼にとって一番気楽に話せる友人は雪であり、雪もまた零音が一番の親友だった。…もう一人親友がいて、いつも三人で話してはいるのだが。
「怖い夢かぁ。私も見るなぁ…」
「そうなのか? どんな夢だよ」
はじめて聞く話だ。雪が天真爛漫だと思っている零音は、少し驚いた様子で聞く。
「うんー…。なんか家族が血だらけで家に帰ってくるんだよね…。ここの家じゃない、全然知らない家なんだけど。どうしてか同じ夢を何回も見るしね…ほんと、やめてほしいなぁ」
雪は唇を尖らせる、その様子からは、あまり怖い夢だった、という印象をうけない。
「雪も、意外と大変なんだな」
零音は笑いながら言った。
「なんだか、東くん遅いなぁ。最近遅れて来るよね…?」
雪が腕を組み、零音に尋ねる。…もう時刻は三十分になろうかとしていた。
「そうだな。あいつ、シェルター事件が騒がれるようになってから、妙に暗いからな。実はかなり怖がってんじゃないかな?」
笑いながら、零音はそう返した。実際シェルター事件で怖がっている人は多い。村でも同じことだが、クラスでも二、三人は、怖いだとか心配だと囁きあっている。
もう、笑いごとにできるような話ではないのかもしれない。零音もそれは感じている。だからこそ、笑っていなければ怖かった。
  一分ほど経って、時計の針が三十分になろうかという頃、最後の一人がゆっくりと歩いてきた。
「東、遅いぞ。もう予鈴鳴るっていうのに」
零音は、そう言って軽く東の肩を叩く。しかし東は、調子を合わせようとはしなかった。
「あぁ、ごめん…」
彼の名前は東健。茶色い髪を後ろに上げた、オールバックのような髪型で、いつもは明るく活発に、クラスの全員と遊んでいる。
 しかし零音の話通り、ここ最近の東は寡黙で、休み時間も机に突っ伏し、常に何かを悩んでいるようだった。
「二人とも、早く行こ。もうチャイム鳴っちゃうよ!」
雪が急かす。確かに時刻ももうそんな頃だ。零音と東はそれ以上話さず、学校に入っていく。
東の表情は、ずっと暗かった。

 このシェルターには、大人たちの働く場所はない。学校の教員になっている人もいるが、それほど人数も必要ないので、ほとんどの大人は仕事専用のシェルター…『Work』に勤めていた。Workは、他のシェルターからも勤務する人がいるが、その誰もが4と9のつくシェルターの人たちだったので、…事件が起きるたび、空席が目立つようになってきていた。
 芹沢の父親も当然、Workシェルターに勤務している。毎日九時から十九時まで、様々な雑務をこなしていた。
しかし、それらが役に立っているという気がしない…働いている者は皆そう思っている。シェルター内の観察資料や用途のわからない部品の製造、役に立つと言えるような物はほとんどなかった。
それでも日々の生活のため、芹沢は働く。基本は村なので、食糧は大都市から届けられるのだが、働かざる者食うべからず、とでも言うかのように、サボる者への食糧は見た感じからも減っていた。
「おはようございます、芹沢さん」
後ろから声がする。村の人たちはお互いに、他の人を見かけたらまず挨拶をする。それくらい親密な関係だ。なので逆に、声をかけられず近づいてくる人がいれば、それは不審者だと気づけるわけだ。
「あぁ、東さん。おはようございます」
芹沢も、東に返事を返す。挨拶が済むと東は、芹沢が座っているベンチの隣の席に座り込んだ。
「仕事時間はもう少し遅かったんじゃないですか? いつもの開閉時間には会いませんし…」
「ああ…、今日は特別なんですよ。ちょっと早めなんです。芹沢さんはいつもこの時間なんですね…」
 このシェルターから別のシェルターに移動するには、『ゲート』をくぐらなければならない。半円のトンネルのようなもので、定期的に開閉している。この44シェルターからはWorkシェルターにしか移動はできず、開閉時間は一時間に十分ほどだった。つまり、仕事開始前のゲート開閉時刻を逃すと、次は一時間後にしかゲートが開かないのだ。制御装置がなく、自動で開閉しているようなので、遅れてしまうと遅刻は確実だった。
「もうそろそろ、ここも狙われるんでしょうかね…。42番シェルターがやられたってことは、…仕事場の何人かもやられたってことですし…」
芹沢が小さい声で言う。42番シェルターの人とは仲良くやっていたのだが…。もう二度と会うことはできない、そう思うと、辛かった。
「…ええ、そろそろですね…。それに、だんだんとスピードが早くなってるように思います。4番シェルターと4番シェルターの人が殺された時には、一週間くらいの間があったのに…。今じゃもう、三日も開かずに次のシェルターがやられてるんですからね。…ここはいつ、狙われるんでしょうか…」
あまりにネガティブな考えだったので、芹沢は東を哀しい目で見つめる。東は、それほどまでに気を滅入らせているのか…。そう思いながら。
「あんまり考えすぎないほうがいいですよ。皆、怖い怖いなんて言いながらも、実は来ないんじゃないかと思っているんですからね。…そう思わないと、余計辛いですよ」
俯く東の肩に、芹沢はそっと手をあて、諭した。
 東が頭を上げる。そしてひとつ小さくため息をつき、芹沢に情けなく笑いかけた。芹沢も笑顔を返す。
「おはようございます。今日は東さんもいられるんですか」
二人の後ろから声がした。もちろん挨拶をしてきたのだから、怪しい人ではない。
「こんにちは、木戸さん。東さんは早出らしいです」
芹沢が言うと、東は頭を下げる。木戸も同じように令をした。木戸はいつも芹沢と同じ時間にゲートを通っている。だから初めに東がいることを聞いたのだ。
「この時期に早出なんて、家に残してくる妻と子が心配になるでしょうね」
「ええ…まぁ。でも、大丈夫ですよ」
その時、ピー、という音が一度だけ鳴り、ゲートが静かに開く。
「ほら、ゲートが開きました。行きましょう、東さん」
「…ええ」
ゲートが開いている時間は約五分間だ。三人はゆっくりと、ゲートに入っていった。

 

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Battle Field――近未来系ミステリ。毒から身を守るために作られたシェルターの中で生きる人々。そんな世界の小さな村で、幼い彼らの元へ訪れる災厄。王道(?)のフーダニットです。
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――異色ミステリ。その日は幸せな一日だったのか。主人公、叶田友彦は、自らに問う。
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