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自作の小説等を置いていったり、読了した本の感想をほんの少し書いたりしていきます。
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#0.plelude_毒世界

バトルフィールド 序章です。


 

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 二十一世紀も終わりを迎えようとしている。発展の著しい百年だった。
世界は目覚ましい成長を遂げ、今や二十世紀の面影は豆粒ほどしか顔を見せない。
二十世紀後半に誕生した携帯電話などは、若者だけでなく、大人全員が持っているほど普及している。
もう黒電話などアンティークの類だ。家庭用電話機の需要もそろそろ無くなってきている。
しかし、そんな数々の成長は、世界にとってプラスになるものだけではなかった…むしろ、失ったものの方が大きかった。
…特に、日本にとっては。
 日本には現在、数百ほどの半円状のシェルターが点在している。そのシェルターのある場所は、大都市、主要都市などだ。
すっぽりと都市が覆われ、日本人はその中で暮らすことを余儀なくされた。外に出れば、命を縮めることになってしまうから。
…毒素の含まれた空気。それが今、日本全土を汚染していた。
 日本の成長は、誰もが期待に胸も、想像も膨らませていたかもしれない。
けれども、空気が人を殺すことになるなんて、想像していただろうか?
今日本人は、その毒を吸わないようにシェルター内に生きている。だから、空はいつも緑色だった。
日も射さず、雨も降らず、雪も降らない。…ただ大きな収容所の中に、住んでいた。
人々は、青い空をもう見ることができなくなった…。
 それでも、そのシェルターの恩恵にすら授かれない人達もいる。毒の世界で救いを待ち望みながら、一生懸命過ごしている人達がいる。
…彼らは、残された人々と言われるようになっていった。
元々は、大都市のシェルター化ばかり進めていた政府が、郊外の町村にまで開発を進めなかったのが問題だった。
 金にならないような小さな村は、次々と切り捨てられていった。何の願いも聞き入れられずに。
そして残された人々は、今もまだ待ち続けている。開発が進むか、あるいは…人口の減少を信じて。
日本人全てがシェルターに入れる時代は、いつ訪れるのだろう。何年かかるのだろう。それは定かではない。今日本は、多大な借金を抱えてしまったのだから。それを返すことしか、今はできないのだから。
毒のない世界、それを夢見ても、もう戻ることはない。…あとは代償を払うだけ。
もうこの世界が昔のように、青い空の下に晒されることは、永遠にないのだ…。

 朝の陽の光が、窓から差し込む。グラスに当たって、そこにいる男の顔を少しだけ照らす。
彼はグラスをゆっくりと回していたが、その中のワインを、中々飲もうとはしなかった。
ずっと考えているのは、シェルターのこと。そして自国、日本の抱える数々の問題のこと…。
 この官邸で、いかにも偉そうなイスに座っている首相。彼は机に置かれている書類に目を通し、溜め息をつく。
既にシェルターは、二百以上も設置された。また、不況により急増した、刑務所内の犯罪者達を隔離する制度も決まった。
しかし、その制度への抗議、他にも様々な苦情…それが山のように積まれている。これほどまでに反対されるとは…自殺した前首相の心情がよくわかる。
国は環境汚染による作物の不作、工場の閉鎖などで財政難になり、広がり続ける汚染のせいで、他国に多大な借金を負ってしまった。
このような絶望的な状態で、いったい何を思いつけば日本を救えるのか。…彼にも、誰にもわかるはずはない。
「…以前、あの人が構想したプランは…」
首相は、自分の信頼する秘書に向かって、呟くように問いかける。
「あのプランはいけません…。犯罪者になるつもりですか、首相…」
秘書は、手に持った手帳をぎゅっと握り、反発した。
 そのプランとは、思い詰め、去年自殺した前首相が最後に遺したプランだ。
「わかっている…そんなことは。…そう、前首相がこれを遺し、実行できず死んだのも…わかっている。しかし、このままでは破滅だ。全て壊れていく。こんな日本の変わり様を、アメリカや中国が見逃すわけはないんだからな…」
このまま日本が、草木一本生えない国になってしまったら? さらには、状況を改善できるかもしれない有能な者が、シェルターの恩恵に授かれずに、死んでしまったら…?
全てが悪い方向に進んで行けば、日本は他国に迷惑しかかけない、不要な国に成り下がってしまう。
そう考えるだけで怖かった。…二人は身震いする。
「自己破産…なんていう制度もある。どうしようもなくなった者たちが、また新たに始めていくためにすることだ。…このプランは、それに少し似ていると思わないか?」
首相は弱弱しくそう言い、グラスを手に取る。すっかり香りの抜けてしまったワインを一口含み、ゆっくりと机に置いた。…横にあった数千の書類の一枚が、ひらりと落ちる。
その紙を秘書は拾う。そして言った。
「…国が自由にできるというのですか? その財産を」

長い沈黙が、流れた。
 

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Battle Field――近未来系ミステリ。毒から身を守るために作られたシェルターの中で生きる人々。そんな世界の小さな村で、幼い彼らの元へ訪れる災厄。王道(?)のフーダニットです。
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――異色ミステリ。その日は幸せな一日だったのか。主人公、叶田友彦は、自らに問う。
双極の匣
現在執筆中。四部編成の長編ミステリ。平和だと信じて疑わなかった村の、秘められた闇とは。
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