[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
名前が呼ばれたのは、それから一時間後のことだった。ある程度人が減って来た所で、先生が時間を作ってくれたらしい。ただし、早く用件を済ませるようにと念を押された。
診察室の扉を開け、中に入ると、すぐに吉川先生の笑顔が見える。
「久しぶり……でもないね。今日はどうしたの」
「あ、はい。実は……」
「おっと、まあ掛けて」
吉川先生は、丸椅子を引っ張って来て、座るように言った。僕は軽く頷いて、その椅子に座った。
「実は、天地悟くんの様子について聞きたいんです。天地のお母さんから、最近またここに入院してるって聞いて……」
それを聞くと、吉川先生は、
「ああ。ここしばらくはまた入院して、静養してもらっているよ。ここは小さな医院だから、ベッドは少ないんだけど、病気が悪化したら大変だからね」
「そうなんでしょうね」
病気については詳しく分からなかったが、入院していないと何かあった時に困る、ということは分かる。ここは管理も行き届いているのだし。
「悟くんの病気は、ここでは治せないものなんですか?」
僕が単刀直入に聞くと、吉川先生は、参ったな、というような感じで、
「うーん、医者としてあまり言いたくはないけど……。そう、だね。ここでは設備不足だ。私の腕もそれ程良いわけじゃない。出来る事なら早く、大きな病院に移した方がいい」
「それには、お金が必要になってきますよね?」
「うん。保険が効かない場合もあるし、天地くんの家が果たしてどういう状況か、詳しくは把握できてないから……。とりあえず、あちらが何も言ってこない以上、お金の用意は出来ないんだろうね……」
「ふむ……」
把握できていない、というのが少し気になったが、ここには大勢診察に来る人がいるのだし、仕方が無いのかな、と思って、僕はそれ以上は考えなかった。今は、天地のことが気になる。
「あの、天地が以前、悟の病気を治せるかもしれないって言ってたらしいんです。吉川先生は何か、心当たりはありませんか?」
天地の三ツ越を巡ることなので、知らないとは思うが、僕は一応聞いてみた。
「……治せるかも? それは、金銭的な援助があるということなのかな……?」
「多分、そういうことだと思います」
「……、……ごめんね、心当たりはないなあ」
長く考え込んだ後に、吉川先生はそれだけを言った。
「そうですか……」
「ごめんね。でも、医者の立場上、町の人から色々話をすることもできるし、そういった話を誰かから聞けたら、連絡するよ」
吉川先生は、そう言って微笑んでくれた。
「あ、ありがとうございます」
僕もつられて、弱々しい笑みを返す。
「じゃあ……忙しいでしょうから、僕はもうこの辺りで」
「もういいのかい? 分かった。じゃあ、また何かあれば」
「はい。また」
手に入った情報は少なかったが、悟くんを治すためには、大病院へ移らなければいけないのだということがはっきりした。なら、やはり天地は金を求めていたということだ。天地と三ツ越。二人について調べることが事件の真実に迫ることだというのは、間違いないと思われた。
Memory Modification
――異色ミステリ。その日は幸せな一日だったのか。主人公、叶田友彦は、自らに問う。
双極の匣
現在執筆中。四部編成の長編ミステリ。平和だと信じて疑わなかった村の、秘められた闇とは。
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |