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七章 真犯人の影……其の一


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 その後ろにいる者は、誰か。


 天地夫人から電話が掛かって来たのは、それから二日後のことだった。一つだけ、以前話したことで新しく思い出したことがあるので、それについて話したいという。電話でも話せると言われたが、やはりそれでは失礼だと思い、僕は夫人の空いている時間に家にお邪魔することにした。
 天地家はやはり、彼がいなくなってから、酷く寂しくなったようだった。弟も入院している。今この小さな家にいるのは、夫人だけなのだ。
「おじゃまします」
 玄関で夫人が迎えてくれ、僕は靴を脱いで家へ上がった。悟の靴は、まだ薄く埃をかぶっている。天地の靴もそれの仲間入りを果たし始めていた。
 仏壇のある部屋で、僕は座布団を渡されて、その上に座る。夫人も向かい合うようにして座った。
「……それで、新しく思い出したこと、というのは……」
 夫人の表情が痛ましかったので、僕は早速本題に入った。夫人は口元を押さえると、
「……はい。以前話した、光流が生前語っていたことについてなんですが……。もう一つだけ、気になることを言っていたのを思い出したんです」
「それは……」
「悟の病気絡みのことです。あの日、光流は病気を治せるかもしれないと言っていたのですが……」
「ええ。それにはやっぱり、大病院へ移る為の費用がいるんでしょうけど……」
「そうだと思います。……つまりあの子は、そのお金が手に入るかもしれないと思っていたんでしょうね」
 夫人は、そう言うと家の壁をゆっくりと見回した。黄色くなった部分が多々見える、古びた壁を。大金などとは、この家ではとても非現実的なものだと、思っているのかもしれない。
「それについて光流は、誰か、協力者のような人がいることを、仄めかしていたんです」
「きょ、……協力者?」
 その言葉が出て来た時、僕は驚いて聞き返した。容疑が濃い、しかし三ツ越らを殺したとは思えない天地。その彼に、協力者がいたとすれば。……むしろ、殺人を犯したのはその協力者の方で、天地はそのほう助をしたのではないだろうか。そう、それについては、天地の方が協力者だったのだ。
 突然現れた、真犯人の影。きっと間違いないだろうと僕は思う。天地の背後に隠れた人物こそが、……この事件の、犯人だ。
「具体的に天地は、何と言っていたんですか?」
「確か、悟の病気を治せるかもしれない、と言った後で、……あいつの言う通りにすれば、と呟いたんです。それが誰なのかは、まるで分からないんですが……」
 あいつ、か。大金を用意出来るとすれば、三ツ越家くらいしか思い浮かばない。だが、自分が好意を寄せている相手に対して、あいつ、なんて言うだろうか。あいつというのが三ツ越のことを指しているとは思えなかった。……しかし、なら一体誰のことを指しているのだろうか? 金を用意できる、他の人物がいるのか、或いは、三ツ越に大金を用意するように頼み、それを彼女か、彼女の家が実行してくれるような人物がいるというのだろうか……。
 ……金。綺麗な話ではないが、やはり殺人事件というのは、そういうことが絡んでいるのだ。弟の為だとはいえ、やはりこの世界は、金の上に成り立っている……。
「……あ、……」
 僕はそこで、気付いた。一つだけ、大きな思い違いをしているということに。
「……待てよ、でも、そんな……」
 僕は今まで、容疑者候補を、ぐっと狭めて考えていた。
 しかしあの日、神田は言った筈だ。
 容疑は平等にかけねばならない、と。
「……でも、あの人が、……。いや、そうだ。あの人は間違いなくあの日……」
 頭の中で、思考が巡る。
 ……メス。指紋。金。人。
「……関わってる可能性は、高い」
 鼓動が早くなる。衝撃的な仮説だった。だが、十分に有り得た。あの人は、共犯者であり得るのだ……。
「……叶田くん?」
 俯いて、額を手で覆っていたので、気分が悪くなったのではと思われたらしい。夫人が僕の顔を覗き込んできた。
「……いえ。大丈夫です。何でもありませんから……」
 とにかく、早く確かめなければならない。神田さんに話をした方がいいだろう。
「とても役に立ちました。本当に、ありがとうございます、天地さん」
「いえいえ。こちらこそ、また来てくれてありがとうございました。出来れば、忘れずにまた、来てやってください」
「……忘れませんよ、誰のことも、ずっと」
 僕は無理に微笑んで、天地の仏壇に祈った。
 そして逸る気持ちを押さえつつ、天地家を後にした。

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