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初めから、知っていたこと。
認められず、忘れたこと。
最後のピースが嵌まる時、
その全てが、戻ってくる。
その日の目覚めは、悪い方ではなかった。まだ頭はぼんやりとしていたが、起きようと考えていた時間よりも三十分ほど早い、六時半に目が覚めた。
昨日一日、布団の中であらゆることを思案した。吉川先生に対し、どういう言葉で、何を聞くか。犯人は一体誰なのか。犯行方法は。……真実を知った後、僕はどうすればいいのか……。
もしかしたら、そんなことを考えていたせいで、まだ思考がはっきりとしないのかもしれない。
カーテンをさっと開く。そこから差し込んだのは、暖かく眩しい陽。それは、真実を照らす一筋の光にも似ている。まだ夢現の気分の中で、僕はそう思ったりもした。
目覚まし時計のスイッチを、鳴らないように押して、僕は押入れに布団を直してから、部屋を出る。
「おはよう、母さん」
「あら、おはよう。早いわね。お父さんも今ご飯を食べてるところよ。……一緒に食べる?」
「うん、お願い」
母さんは、僕の返事を聞くとすぐに、台所へ顔をひっこめ、料理を始めた。簡単なベーコンエッグでも作るらしい。卵の殻を割るカンカン、という音が響いた。
席に着くと、父さんが僕の顔を覗き込んでいるのに気づく。……そういえば、早朝に父さんと話したことは、あまりなかった。
「……まだ眠いみたいだな」
「ちょっとね」
僕は曖昧に笑う。すると父さんは、それを吹き飛ばすような真剣な顔で、僕に言った。
「……でも、いい顔してるぞ」
「……」
父さんは、声には出さなかったが、口元に笑みを浮かべる。
「……何か、あったんだろう。……頑張れよ」
「……うん」
子供の心というものは、何だかんだいって親にはすぐ分かってしまうものなのかも、しれない。
*
朝食を済ませてからしばらく、父さんが仕事へ出かけると、入れ替わりに近いタイミングで神田が訪ねてきた。時刻は七時三十分。まだ吉川医院が開院する一時間近く前だった。
「よ、叶田」
「おはようございます、神田さん」
いつのまにか彼は、僕のことを叶田と呼び捨てにするようになったが、その方がしっくりきた。
「まあ、神田さん。最近よくいらっしゃいますね」
玄関で挨拶を交わしていた僕らを見て、母さんは慌てて頭を下げた。そんな母さんに神田は、
「すいませんね、何度も。……ところで、コーヒーでも頂けますか?」
などと言ったものだから、僕は呆れて笑った。
僕と神田はすぐさま部屋へ引っ込んだ。そして決戦前の景気づけだと言って、コーヒーを飲み交わした。後は特別重要なことを話したわけではない。けれど、互いに何を話そうとしているかは、もう殆ど理解できていた。
多分、こうやって楽しく時間を過ごしたのは、……吉川徹朗という、心優しい――少なくとも、今まで僕らはそう思っていた――人物の暗い真実を知り、それを今明らかにしようとしているからだろう。良き医者の、そして旧友の、闇を知る。それは決して喜ばしいことなどではないのだから。
……だから、僕らはこうやって、最後の数刻だけは、目を逸らそうとしていたのだろう。
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