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……そして、僕はもう一度、十字路にやって来る。一歩進む勇気を示すためにも。
「……」
ここで起きたこと。その全てを知らねばならない。僕が見た光景は、その全てではないのだから。さあ、一体僕は、白なのか、黒なのか。それを知るために、一歩、踏み出すんだ。
また、目を閉じる。そして、ゆっくりと歩く。……あの日と同じ。僕はゆっくりと、十字路へ向かって、歩いて行く。
そこに、記憶が重なっていく。薄暗い靄が少しずつ晴れていき、歩く僕の姿が、鮮明に見えるようになった。そう、僕は確かに、あの日この道を下って、十字路の中心へ、歩いて行った。
そして、映像が自然に進んで行く。
それは、偽りのない、真実の光景。
十字路の先に、少年が立っていた。その少年の足元には、倒れている人影があった。どうやら少女のようだ。スカートを穿いているので分かる。
倒れているのは、どうやら三ツ越のようだった。そして、それを見下ろす者は……。
「お、お前……天地!」
僕は叫んだ。天地は、僕の声に気付くと、短い悲鳴を上げて、尻餅をついた。
「お、俺……、あ、……」
天地は、自分が握っているメスに視線を落とす。それはきっと、今まさに彼が三ツ越を刺したということを物語るものに違いなかった。
「お前がやったのか!?」
僕は天地の元へ駆けていく。天地は、震える足で何とか立ち上がって、逃げ始めた。こういう時には、人間というものは俊足になれるらしい。しばらく追いかけたのだが、僕は彼に、到底追いつくことができなかった。
追いかけることを諦めた僕は、大切なことに気付いて来た道を引き返した。そうだ、三ツ越を救わなければならない。まだ息があるなら、すぐに警察と消防署に連絡して、パトカーと救急車を呼ばなければ。すぐさま彼女の元へと駆け戻った僕は、脈を確認しようと彼女の傍に座りこんだ。
息は無い。……そして、脈も無かった。絶望的だった。彼女はもう、助からないだろう。直感的にそう思った僕は、ぼろぼろと涙を零した。何故、天地が。何故、三ツ越を……。
「お前、三ツ越が好きじゃあ無かったのかよ……!」
天地が三ツ越に対して好意を抱いていることは、その言動からわずかに伺い知ることが出来た。僕にもそれが分かったのだから、皆少なからず知っていた筈だ。……その天地が、どうして三ツ越を、殺してしまったというのか……。
三ツ越の死体から目を背けると、そこには光るものが落ちていた。何だろうと思い、近づいてみると、それはメスだということが分かった。これが凶器に違いない。その先端が、赤い血に染まっているから。
「でも、これは吉川医院の……?」
何が起きているのか全く飲み込めず、僕はメスを握ったまま、ゆっくりと立ち上がった。そして、そのまましばらくの間、呆然と立ち尽くしていた。……メスと三ツ越に、交互に視線を落としながら。
今起きている事態を何とか理解しようと、頭の中で必死に考え込んでいた。
――その時。
「叶田くん……!」
僕はその声に驚き、振り返った。そこには、野島と茂木がいた。顔は酷く怯え、それでも怒りのようなものが垣間見える。僕に対してのものに違いなかった。
――まずい……!
今、僕の手には、メスがある。この状況では、僕が疑われるのは自明のことだ。どうすればいい、どうすれば、この状況を打開できる? 僕は突然の事態に混乱してしまった。
「お前……」
茂木が、手をぐっと握りこんで、震わせながら、僕に詰め寄る。
「……僕、は……」
僕は、やってない――。
言葉にならなかった。そうだ。言葉にしたところで、証明するものは何もない。
なら、天地を捕まえればいいじゃないか。それなら、彼の口から全てを話してもらえる……。
そう思い、僕はメスを放り出して、森の方へと走り出した。天地が向かったのも森の方向だ。まだ出てきてはいないだろうから、捕まえることは不可能ではない。
「待て、叶田ぁ!!」
茂木の叫びを背に受け、罪悪感に苛まれつつも、僕は足を決して止めなかった。
自らの無実、そして真実をこの手で掴む為にも……。
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