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自作の小説等を置いていったり、読了した本の感想をほんの少し書いたりしていきます。
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#4.Rondo _疑心の矛先_1


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 ―踏みしめる。躊躇うこともなく。
  彼が全てを粉々にする。
  だから私は悲しまない。
  はずなのに。


 時計の秒針の動く音が聞こえるほど、静まりかえった教室に、全員が息苦しくなりながらも、集まっていた。今は四時五十分。そろそろ陽も西へ沈み、夕方になろうかという頃だった。
「あと…まだ十三時間…。…こんな状態で、そんな長いこと待たないといけないのか…。何も手はないのか…」
 時間のことを考えれば余計に息が苦しくなる。外部への連絡手段が断たれた今、自分達が朝までどうにかしなければいけないのだ。
 零音は室内を見渡す。何か武器になるものはないだろうか。犯人が武器を持っているのに、こちらは素手だと、歩が悪い。
「…何かこっちも打つ手はないんだろうかな…。例えばどこかから武器になりそうなものを持ってきたり…バリケードを作ってみたりとか…」
 必死に考えては見るものの、危険性を考えれば、優先度の低いことばかりだ。
「…バリケードなんて作っても、犯人は銃を持ってるから、無意味でしょう…。多分こっちの逃げ道がなくなるだけです。……武器だって、やっぱり犯人の持っているものには劣るでしょうから、必然性はないと思います…」
 朝霧が、横目に零音を見ながら言った。あまりに淡泊に返されたが、もっともな正論なので、言い返すこともできなかった。浅はかだったと自身を省みるしかない。
 空が暗くなるにつれ、確実に彼らの表情も暗くなる。何かすべきかと迷いながらも、できることはなにもない。そんなもどかしさが苛立ちを募らせ、空気をさらに重くする。
「…そろそろ夜か…。食事とかは、どうするかな…。一日食べなくても何とかなるけど、食べたほうがいいよな…」
 腹を空かしたまま、緊張を張り詰めさせて一日を過ごすのは、とてもできそうになかった。一食を抜いただけでも、いざという時の力や、思考能力の低下はいなめない。
 しかし、敵のいる場所に身を晒すリスクを冒すことに比べると、食事は優先すべきかどうか、分かりかねていた。
「んー……。そうね。もし行く機会があれば、誰かの家から拝借しましょう。台所も借りれば、簡単なものは作れると思うし」
 関先生が言う。つまりは、余程のことがない限りは籠城優先、ということだ。
 零音は溜め息をついて、再び座り込む。教室内は、机は後ろに下げて、全員ができるだけ場所をとれるようにしていた。なので見通しがよくなり、廊下に誰かが来たとしても、すぐに気付ける。しかし、籠城している今、犯人が学校に入ってくること自体おかしなことなのだが。扉を強引に壊してくる可能性もなくはない、が…。
「夜は外が見え辛いから、注意が必要…だな」
 舞宮が、窓から外を眺めながら言う。今は、エメラルドのような緑色のシェルターに、オレンジ色の陽が当たって、シェルター内は美しい光に包まれていた。…まるで死者への手向けのような景色。
 夕焼けは、零音に、優磨の手紙を見つけた時のことを思い出させる。優磨の残した言葉を理解し、見つけた時。彼は優磨の事故を忘れてはならないと思った。しかしそれは、自身に辛い重石を背負わせてしまうことになった。時たま見る悪夢が、嫌でも優磨のことを思い出させる。その度、忘れた方がいいのではないか、と思うようになった。
 優磨が死んだ後、先生は、できるだけそのことを皆から忘れさせようとした。同時に、皆も忘れようとした。平和だと思っていたシェルターでのあの事件は、あまりにもショッキングだった。
「……また、こんな悲しい目に遭わなきゃいけないのかよ…なんだってんだ、ほんとによ…。……残された人々が犯人かもしれないって言ってたけど、俺達は何も悪くないぜ…。どうして皆殺されるんだよ。筋違いだろ…」
 零音は呟く。しかし、周りに聞こえてしまうほどの声だった。遠まわしだが、親の罪に巻き込まれ命を狙われていることに、腹を立てているのだ…。親のことはもう責めてはいないと心の中では思っているのだが、…やはり、嫌な置き土産を遺していったことは、喜べることではない…。
「……零音くん」
 関先生が声をかける。零音が顔を向けると、先生は真剣な顔で尋ねた。
「…刑務所内で生まれた子供や、犯罪者隔離シェルターで生まれた子供は、当然犯罪者じゃないわ。そうでしょ?」
 至極当たり前のことを聞く。その通りだと零音は思う。
「…はい」
「でもね。十七年前に、決まったのよ。犯罪者の生んだ子供もまた、同じシェルターに収容されるという法案が。…当然その時は、政府が色々な対策に追われて、よくわからないことを色々していたんだけどね…」
 そう。だからこそ全員がこのシェルターにいるのだ。そうでなければ、生徒は全員、施設にでもはいっているだろう。犯罪者移民制度が強化され、子供も同じ適用を受けたからこそ、今ここにいるのだ。
「…確かに、そうじゃなきゃ俺達はここにいないな……。でも、それって目茶苦茶な法律じゃないか。残された人々が怒るのも、当然だ…。俺達に怒りをぶつけるより、政府にぶつけろ馬鹿野郎って感じだけどな…」
 零音も怒りをぶつける癖が直らないようで、暴言とともに壁を、軽くだが殴った。
「ええ。もちろん、それには残された人々も怒り狂ったわ。…どこまで自分達を卑下するつもりなのか、ってね…。しかしその法案も通ったわ。…そして今も、改善される様子はない。政府も困ってるんでしょうね。今さら犯罪者とその子供に、シェルターを出ていけと言えるはずもないし…」
 何十ものシェルターに住む犯罪者達を退去させることは、もう不可能に近いだろう。暴動が起きれば、それこそ政府の危機だ。…この事件が起きるまでは、均衡が保てていたので、それを維持しているのだろう…。時期に崩れるのは間違いないだろうが。
「…くそっ、政府のせいで、俺たちゃこんな風になってるんだな…。残された人々も。くそ、政府の奴らもぶん殴ってやりてぇぜ…」
 水谷と、朝霧もそれに頷いた。親を殺された怒りは、男同士理解しあえた。
 女の子もまた、そこまで暴力的ではなかったが、そう思うことによって悲しみをできるだけ忘れる。
 こういう風に、一致団結して構え、一日を終えられればいいのだが。零音はそう思う。しかし、木戸がそうであったように、どこで誰が、どんなミスをするかは分からない…。
「…そう言えば、木戸はなんで窓なんか開けたんだ? 注意してたんだから、普通開けたりしないよな…」
 河井の方を向いて零音は言ったが、河井にもわかるはずはない。それに、彼女に聞くのは酷だろう。
「…芹沢くん、そのことなんですが」
 朝霧が口を開いた。
「……芹沢くんは、爆弾なんか仕掛けてませんよね…?」
 突然そんなことを言われて、零音は戸惑った。当然だ。疑われているのだから。
「ば、…爆弾? なんでだよ、そんな突然…」
「実は、外を覗くと、時限爆弾のような物があったんです。タイマーは止まってましたが…。どうやら、それを見て外に投げ捨てようとして窓を開けたようです。芹沢くんは、木戸くんがトイレに行く時、あっさり了承しましたよね。…そこまで簡単に、孤立を許可するのかな、と思って…。いえ、ちょっと疑問に思っただけですけどね…」
 朝霧はそんなものを発見していたのか、と感心した零音だが、疑いを晴らさなければならない。そもそも、誰も止めなかったのに、俺だけが木戸に許可を与えたからという理由で疑われるのはおかしいはずだ。
「……職員室のこととか、…犯人のこととか、考えてたからな…。まさかあいつが、そんな風に罠にはめられて殺されるなんて、思わなかったんだ」
 零音が言うと、朝霧は納得したように笑った。
「…そうですね。…ごめんなさい。僕も確かに、止めたりしませんでした。あの時は誰も皆、他に気をつかえるような状況じゃありませんでしたよね…」
 仕方のないことだった。殺人が起きて、大切な人が死んで。こんな風にならない人はいなはずだ。だから、きっと仕方のないこと…。
 話を終えるとまた、静まりかえる。もう誰も、口を開かなかった。
 

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――異色ミステリ。その日は幸せな一日だったのか。主人公、叶田友彦は、自らに問う。
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