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自作の小説等を置いていったり、読了した本の感想をほんの少し書いたりしていきます。
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#3.Epic _血塗られた過去_2


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「そして、残された人々は、だんだんと生活に困窮して、…いつしかシェルターに住んでいる、ただそれだけの人すらも憎み始めるようになったわ。毒のない世界で幸せそうに笑っている人達全てが、自分たちを嘲笑っているかのように見えた…そんな感じ、かしら…。いや、本当に一部の人は、残された人々をそんな風に見ていたわね…。
 政府からの援助も減ってきた頃、ついに残された人々は、我慢の限界を超えてしまった。…たくさんの人が、…犯罪に走ったわ。生き残る為に、明日、明後日の食料を手に入れる為に…」
 自分たちの両親の通ってきたであろう過去を聞きながら、誰もが視線を床に落としながら、両親との日々を思い出していた。涙を流しながら、幸せの日々を頭に浮かべ、そしてそこに至るまでの両親の人生が、どれ程までに辛く苦しいものだったかを想像し、また涙を溢れさせた。
 零音は反省する。犯罪者という言葉を肯定するわけには行かないが、少なくともその言葉だけで、今までずっと一緒だった両親に、少しでも軽蔑を抱いてしまった。しかし、犯罪者とは、罪を犯した人全ての俗称であって、…善人悪人の区別ではないのだ。
「そう、本当は政府の手が回らなかったせいで、何人もの人が犯罪者にならざるをえなかったのよ。大きなものは、小さなものを切り捨てる…それが、世の常なのかもしれないわ。だからあなた達の両親は、犯罪者になってしまったのよ」
 …そして関先生自身もなのだろう。彼女もまた、右手で左手を握りしめている。…辛い過去を思い出しているのだろう、そう全員が思った。
「…だからね? あなた達の両親は、…みんなみんな、良い人達なのよ。だから、両親を悪く思うのは、だめよ…?」
 誰も異議を唱えるわけもない。自分達だって、同じ目に遭えばきっと、両親と同じようなことをしただろう。そしてきっと、政府の偉い人間だって、同じ思いをすれば気付くだろう。自分達の無知と、傲慢を。
 …全員が黙りこみ、しばらく空気が淀む。…そして一分ほど間を置いて、先生がまた話し始めた。
「……でも、残された人々の中にも、罪を犯さない人がいたわ。いえ、厳密には、罪を犯さなかった人達が残された人々と言えるのでしょうね…。その人達は、罪を犯した先の幸福という禁忌の誘惑に駆られながらも、必至にそれを拒んで、ずっと餓えと戦い暮らしているわ。…今もね。それに比べれば私たちは、…それを途中でやめてしまった悪人と言われてしまっても、仕方ないのかもしれないけれど…」
 関先生は髪をすかしながら、重い溜め息をつく…。
「もしかしたらこの事件は、…今の残された人々が、私達から住む場所を奪い取るために、計画されたものなのかも、しれないわね…」
 昔の犯罪者達は、明日を得るために、他者から何かを奪い取ったのだ。ならば、また同じように、今度は自分達が彼らに、全てを奪われてもおかしくはない…。
「…残された人々…ですか。よく聞きますが、…そんな過去があったんですね。…この日本には……」
 朝霧は、眉間にしわを寄せる。おおよそ十四歳とは思えない表情だった。眼鏡を指で押し上げ、口を手で覆ったかと思うと、顔をそらす。
「でもよ、そんなんで殺されるなんて、いくらなんでも酷過ぎるだろ…! 先生の考えは確かにしっくりくるけど、犯人がそんな奴らだなんて、俺は思いたくない…」
 親を殺された水谷は、立ち上がって腕を振り、全身で訴える。水谷は、親を殺した犯人は絶対悪だと思いたいのだ。人を殺して笑っているような、そういう人間が犯人だと半分決め込んで、絶対に復讐してやろうと心に刻んでいるのだ。だから、…自分達の両親と同じような境遇の、それこそ元は善良な人間が、自分の両親を殺したなどと、思いたくない…。
「ええ。確かにそうね…。私の言ってることは、歴史を元に考えた私の結論だわ。…だからこそ、…私も犯罪者だからこそ、この事件が今話したようなことなんじゃないかって、……そう思えて仕方ないのよ…」
 関先生の声が胸に響く。……この小さなシェルターには重すぎる歴史だった。
 また空気が沈黙して。…それを無理やり破るように、零音は力強い声で言った。
「…だけど。殺されるわけにはいかないぜ。いかに犯人が辛い過去を背負った人間だったとして、みすみす殺されるなんて絶対に嫌だからな。俺は両親の仇をとるんだ…! 俺達は生き残って、犯人を止めて、法律でしっかりと裁いてもらわないとな」
 それを聞いて、他の全員は顔を上げる。そう、決意がなければ、生き残ることなんてできないだろう。シェルター事件の犠牲者の一人としてまた、自身も名を刻まれることになるだろう。だから、決意しなければならない。生き残ると。そして両親を殺した犯人に、然るべき裁きを、受けてもらわねばならない。
「……そうだね。生き残らなきゃ。私達がここでずっと落ち込んでたら、きっとすぐ犯人にやられちゃうよ。…なんとかして生き延びないとね。ここから出られないなら、助けが来るまで生き延びないと。…ほら、木戸くん。しっかり」
 河井が木戸の手を握る。それは木戸を元気づけたし、他の皆をも元気づけた。ほんの小さな勇気の光が、他の全員にも連鎖し、力になった。
「…うん。その息よ、皆。そうだわ、殺されるわけにはいかない。皆で生き残りましょう。皆の両親も、それを願ってるわ…絶対に」
そう言うと、関先生は、ズボンのポケットから何かを取りだした。
「そして、残念ながら犯人は、すぐに捕まることになるわ。…大丈夫。これ以上誰も死なせるわけにはいかないんだから」
 それは、携帯電話だった。そう、こんな村にも携帯くらいはあるのだ。…いや、実際には関先生しか携帯を持っている人はいないのだが。関先生はシェルターworkに住まいがあるらしく、…それがちゃんとした家かは不明だが…、各家庭と迅速に連絡がとれるようにと、携帯を政府から購入したらしい。そういえば、前に何度か見せてもらったことがある、と何人かは思い出していた。
「…せんせ、…そんな便利なものがあったなら、もっと最初にだしてよ…。へへ、いらない汗かきまくったぜ…」
 零音は、さっき熱くなって話したのを恥ずかしがる。熱弁をふるったのに、事件がこれでおしまいになるとは…。誰にとっても拍子抜けだった。いや、安堵できたのはよかったが。
「な、なんだか意外だね…。犯人もこんなの、考えてなかっただろうね…。そうだよね、今は昔と違って、連絡手段はすごくたくさんあるんだもんね」
 雪がにこ、と笑う。それを見て、他の皆にも自然と笑顔がこぼれた。まだ安心が決まったわけではないが、この時は誰もが、助かる、と思えた。
「…警察は110よね。…警察なんてかけたことなかったわ…。……あれ…」
 途中まで、うっすらとだが見せていた笑みが、先生の顔から消える。
「…繋がらない…。まって、もう一回…」
 二度、三度。リダイヤルを繰り返すが、繋がる様子はない。生徒の何人かも携帯を受け取って耳に当ててみたが、不通の証である、ツー、という音が鳴るだけだった…。
「…どういうこと…? だって、携帯でしょ…? 固定電話じゃないから、回線なんて切れるわけ…」
 河井が取り乱す。他の皆も、そこまで考えがいっての動揺だった。どうして、携帯が通じなくなるのか…?
「先生、もしかしたら、…本当に周到に練られた計画なのかもしれませんよ…」
朝霧が含みを持った言い方をした。そして携帯が繋がらない理由を推測する。
「この村の中央には、電波塔があるはずです。丁度、芹沢くんと白井さんの家の裏側ですね…。それがもしかしたら、壊されているのかもしれません…。それ以外に考えられませんから…」
 電波妨害をするなら、電波の発生している所を壊すのが、一番簡単な方法だろう。もしくは、犯人は妨害電波を発生させる器機をもっているのかもしれなかった。
「…はは、犯人を甘く見てたな…。また喉が詰まりそうになってきやがった…。くそ、やっぱり俺達は、逃げられないのか…?」
 零音の額に汗が浮かぶ。拳を反対の手のひらに叩きつけ、悔しさを露わにした。一時は浮かんだ安堵の笑みも、やはり薄っぺらい希望のベールだった。それが簡単にひき剥がされれば、笑顔も一瞬にしてかき消えてしまう。
「…覚悟を決めるしかないね…。通信手段もない、脱出手段もない。…要するに、警察が一日一度の連絡の時に、異変に気づいて駆けつけてくれるまで…このシェルターで待ってるしかないってことか…」
珍しいことに、木戸がその覚悟を示す顔で言った。こういう時には、怯えて何も言えないような性格だと思っていたのだが、それは違うらしい。全員が、彼への評価を高めた。そして自分達も同じように、覚悟を固めなければ。
「…皆、ここにこもるなら鍵を全部閉めよう。ちょっと暑くても、仕方ない。先生、職員室とトイレの窓に鍵はかかってますか? ああ、職員室はかかってましたね…。あとは、玄関口の扉…」
 舞宮は立ち上がると、教室の窓を閉めながら聞いた。先生も、気持ちを切り替えて、皆を守るために行動しはじめる。
「トイレは鍵をかけてるわ。掃除するまではいつもかけてるから、間違いなくね。玄関は、今から鍵をかけてくるわ」
 廊下に足音を響かせて、関先生は玄関へ向かった。そして教室にいても聞こえる、カシャ、という音を鳴らし、先生は戻ってきた。
 一応全ての窓の鍵が閉めてあることを全員で確認し、学校への籠城の体制は固まった。…食料は流石にないが、今は仕方がない。犯人の全容がまだ、何もわかっていないのだから。
「皆、がんばろう…。泣くのは、いつだってできるんだ。…今は泣くより、生き残る為にがんばってほしいって、父さんも母さんも思うはずさ…絶対に」
 零音が言うと、全員が力強く頷いた。それを見てまた、零音も力強く頷く。
 今は午後の四時。警察が来るまで、たっぷり十二時間以上ある。生き残れるだろうか、この九人全員で。
 東だけは、俯いたまま、頷くこともしなかった…。




 

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――異色ミステリ。その日は幸せな一日だったのか。主人公、叶田友彦は、自らに問う。
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現在執筆中。四部編成の長編ミステリ。平和だと信じて疑わなかった村の、秘められた闇とは。
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