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自作の小説等を置いていったり、読了した本の感想をほんの少し書いたりしていきます。
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#6.Funeral march _死と、憎悪と、解明の糸_1



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 ―その言葉は、彼の身を焼いた。
  その言葉は、彼の命より重かった。
  真実が一つ零れ落ちた。
  悪意の糸が、解け始めた。


 零音は、銃を転がしたり、構えたりしていた。まだ使う時はこないとは思うが、その手には既に汗が滲んでいた。この引き金を引けば、人が傷つく、人が死ぬ。そう思うだけで、恐ろしかった。散々殺してやるなどと叫んでいたが、人の命はやはり、重いものだ…。
 弾の数は八発あった。確認しておかなければ、いざという時弾切れになると危険だ。
 もちろん、弾倉の取り出し方は朝霧に教えてもらった。関先生も少しは知識があったようで、反動が大きいから気をつけて、と言われた。いつも体育の日に火薬銃をつかっているからだろう。
 電波が遮断されているので、テレビもラジオも点かなかった。緊張感がでるのはいいが、朝までこうしていられるか、自信があるものはいなかった。
「今、八時十分…か」
 零音は時計を見上げる。四角く、小さな時計は、一秒ごとに音を立てて動いていた。
 朝の八時頃には誰も、こんな事になるなんて思ってはいなかった。両親を失い、木戸を失い、河井を失い。たくさんの涙を流す事になるなんてことは。
 殺人者の銃を見ながら、零音は思う。こんなにも現実離れしたことが、本当に、今起きているのだろうか。悪い夢なら、早く醒めてほしい…。
 悪い夢なら、何度も見ている。あの悪夢だけで、十分じゃないか。零音は眉間に縦じわを寄せる。また仲間が死ぬ夢を、これから先、見続けるのだろうか…。
 木戸と河井が仲良く、昼休みに二人で弁当を食べている姿が思い出される。それが血に染まる光景が、脳裏に浮かぶ…。
「…ッ…」
 優磨の姿も浮かぶ。仰向けに倒れ、後頭部から血を流して倒れている優磨…。あの日零音は彼を抱きかかえ、血に染まる手を見て、…悪夢に取りつかれてしまった。
 石で後頭部を殴り、倒れている優磨……。
「……え?」
 あることが、引っかかった。それは今さらなのだが、……あの状況を見たのは零音だけなので、誰もそれを知るはずはないのだが。零音は気付く。ある重要なことに。
「どうして、気付かなかったんだ……」
誰にも聞こえないように小声で、呟く。そう、一つだけ、…絶対にあり得ないことがある。
「…後頭部、…なのに……」
 優磨は、仰向けに倒れていたのだ。つまり、顔を上に向けて、倒れていたということ…。なのになぜ、後頭部を強打して、死んだのか…。自殺だと誰もが勝手に決め込んでいたが、…それは考えれば、おかしな話だった。
 自分で後頭部に石をぶつけたなら、うつ伏せに倒れるはずなのだ…。
 優磨の服の前の部分には、砂がついていなかった。つまり、倒れてから体制が変わっていないということだ。なら、…つまり、自殺ではないということなのだろうか…。
「……そんな…ことって、」
 ――その時、強烈な爆発音が響く。
「…ッわ!?」
 それはまさに、爆弾が爆発した音だった。全員はあまりの音に耳を塞ぐ。その音とともに、零音の考えも吹き飛んでしまった。
 …風圧はすさまじく、振動で机の上の物が音を立てる。
「な、なんだよッ、一体…!?」
 爆発音は本のある部屋の方から。そしてその部屋から、破れたり焦げたりしたページ片が吹き飛んでくる…。
「あ、…ああ、…僕の、…父さんの、…ああ」
朝霧が、そのページを狂ったようにかき集める。そう、この本達は、朝霧の大切な宝物…両親との思い出が詰まった、大切な物なのだ…。
「ぐ、…う、…うう…」
 いくら集めても、それらは既に修復など不可能だった。…朝霧は、歯を食いしばりながら、…集めた紙を手で握ってぐしゃぐしゃにした…。
「くそ、どこまで馬鹿にしやがんだよ畜生おおお!」
 零音は、爆発音のした部屋へ走る。やはり彼は、こういう場面になれば、後先も考えずに走り出してしまう。そうなってしまえば、誰の声も耳に入らなかった。
「零音くん、待って!」
 関先生は叫ぶが、零音が止まるはずもない。
 部屋に着くと、壁に大きな穴が開いていて、本棚は部屋の隅に吹き飛んでいた。そして爆発した場所から煙が上がっている。しかしその煙もすぐに消えて、奥にいる人物の姿を見せた…。
「……こんばんは、また会いましたね」
「…ノトス…」
 煙の中から出てきたのは、青い髪のあの男。そして後ろには、殺人者を従えている。零音は敵意をむき出しにして、銃を構えた。怒りからか、恐怖からか、その銃口は震えていて、とてもまともに撃てるとは思えないが。
「…しかし、時間がかかったな…。あいつめ」
ノトスが舌打ちをする。誰に対してか分からなかったが、後ろに見える殺人者も舌を打ったので、彼に向けて言ったのだろうと零音は推測する。
「一くん、ちょっとこの計画、派手だよね…。いいの? こんなので。集まりすぎるよ…」
 その声は、女性の声。またしても零音の知らない人間が、崩れた壁の死角から現れた。…緑の髪の、女。
「ゼピュ。こういう時は名前で呼ぶな。今は注意を払って行動しなきゃいけないんだから」
 ノトスは、目を瞑って顔をしかめる。しかし、まんざらでもないようで、ゼピュロスの髪を撫でた。
「さてと。……どうして君一人なんだ。…後は、…まさか逃げたか」
 零音を置いて逃げるとは考えにくかったが、家を爆発されれば、敵がどれほど危険なのか理解して、…零音を切り捨てるということもあり得る。
「…何が目的だ。残された人々の居場所か…。その為に、…何人も人を殺してきたのか」
 零音は、腹から絞り出すように声を出した。敵は笑っている。こんな奴らが本当に、…残された人々なのだろうか。餓えや苦しみと闘ってきたと聞いていたのに。
「さあてね」
 あくまで直接的に答えは言わないつもりなのか、ノトスはそれを流す。その言葉が、更に零音を怒らせた。
 ……そのとき、殺人者が口を開く。
「こいつらも雇われだ。質問には答えられねえよ」
 ハハッ、と短く笑い、そう言った。
 その瞬間だった。
 空気を裂くような音が少しだけ聞こえた。
「…あ……?」
 殺人者が、横目にノトスを見る。そして、顔をしかめた。
 ノトスの手には銃が。そして、その先からは硝煙が立ち上り、間違いなく、今この瞬間に、殺人者を撃ったことが分かる…。
 殺人者は、突然のことに困惑し、ノトスのマントを引っ張りながら、床に崩れ落ちていく。
「……て、…めぇ…」
 ノトスは、笑っていなかった。
「…馬鹿が。口を滑らせるな…」
 殺人者は、苦悶の表情を浮かべる。まさか自分が死ぬことになるなんて、予想もしていなかったのだろう。倒れた後も、必死にもがいて、ついには仰向けになり、呻きながら、…やがて絶命した。
「…チッ……」
 全く容赦なく引き金を引いたノトス。零音は、状況が理解できなかった。なぜ、ノトスは殺人者を、撃ち殺したのか…?
 しかし、先ほどま笑っていたノトスが、急に真剣な顔になったことから、何か殺人者が、重大な事を漏らしたことだけは分かった。
「……仕方ない。君は最後に残しときたかったんですが。……さよなら」
 恐怖と混乱の中、ノトスが銃をもう一度構える。そして零音へ向ける。…二度目だった。今度こそ、助からないだろう。零音はそう覚悟しながらも、…自らも銃を構え、ノトスに向ける…。
「うわっ!?」
 突然後ろに引っ張られ、零音は転倒しそうになる。しかし辛うじて踏みとどまって、その流れに体を曲げた。
「先生!?」
零音を引っ張ったのは関先生だった。同時に、ノトスが発砲し、たった今まで零音が立っていた場所の延長線上の壁に、弾が埋まる。間一髪、先生は銃を撃つ直前に飛びだして、左腕の服の袖を引っ張ってくれたのだ。
「私達じゃ勝てないわ、だめよ、一人で行動しちゃ! あなたを失うのが、一番辛いんだから…」
 顔を見せずに、先生は走り続ける。…しかしその声色から、零音は、関先生が涙をこらえているのを感じた。
「…ごめんなさい」
 完全に体を預けていたが、謝ると、手を振りほどいて自らの意思で走る。そして玄関から外へ出た。
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――異色ミステリ。その日は幸せな一日だったのか。主人公、叶田友彦は、自らに問う。
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