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自作の小説等を置いていったり、読了した本の感想をほんの少し書いたりしていきます。
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#5.Fantasia _アネモイ_1



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 ―それは幻想の住人をかたどった殺人者。
  東は怒り、西は喜び、南は楽しみ、北は悲しみ。
  それをかたどった、殺人者。


「……誰だ、……お前」
 零音が銃を向ける。しかし男は、鼻で笑った。
「メシアとかいう奴らか…」
 それを聞くと、笑顔が一瞬消えた。しかし、それほど動揺することではなかったらしい。また彼は、笑顔を作る。
「お前、そんなこと一々言ってたのか……。まぁ、いいでしょう。私はメシアの十三番隊Tea所属、『アネモイ』の、南風ノトスと言います。残された人々に、祝福を」
 恭しく一礼して、ノトスと名乗った男は、零音を見た。人を馬鹿にしたような笑顔で。
「…変な名前の奴が多いな。ふざけやがって」
それを聞くと、またノトスは笑う。
「ハハ……。まあ、仕事用の名前みたいなものですし。ちなみに私の本名は能登一哉。どうぞよろしく。…お会いすることは、もうないでしょうが」
 そう名乗った刹那、ノトスは素早い動作で、銃を構えた。それはまさに一瞬。零音がその動きに対応できるはずもない。
 零音が指を震わせている間に、ノトスは狙いを定め、零音を撃ち抜こうとする…!
「おっと…?」
 引き金を今まさに引こうとした時、ノトスは体制を崩した。なぜ?
「芹沢!」
 窓の外には、東を抱えた水谷と、雪の姿。そしてノトスの足元には、カッターと、包丁が落ちていた。
 水谷と雪は、零音が殺人者と対峙している時、ノトスを見つけたのだ。そして、トイレの窓から外へ出て教室の窓の方へ周り、状況をうかがっていた。零音が追いつめられたのを見て、武器をノトスに投げつけたのだ。
 水谷が作ってくれた隙を、逃すわけにはいかない。零音は急いで走った。殺人者にもノトスにも追いつかれないよう、脱兎の如く。殺人者の割った窓を飛び越え、水谷と雪とともに走り去る。……殺人者の銃を持ったまま。
 …三人が逃げた後、ノトスは自分のマントを見て、笑う。
「中々勇敢な子供達ですね。…マントが破れてしまった」
 振り返って、教室を出ていく。
「ああ、殺人者くん。銃はもうないからね」
去り際に、それだけを言い残した。
 …一人残された殺人者は、馬鹿にされて悔しいのか、机を蹴りつけた。
「……畜生。俺を手駒扱いしやがって」

 必至に走った三人は、学校からかなりの距離をとったことを確認して、立ち止まった。休んでいると、河井のことを思い出して、雪がまた涙を流す。疲れて息も絶え絶えに、更に涙も流す雪を見ていると、零音も水谷も心に棘が刺さるように感じた。
「…ここは、どの辺りだ…はっ…はぁ」
 陽は既に地平線に半分以上消えているが、この道路には外灯がいくつか設置されていて、辺りを明るく照らしてくれている。その為、零音達はすぐに自分達がどこにいるか把握できた。
「…すぐそこに、…東の家があるな……」
 東の家は学校から右に歩いた奥にある。一軒だけで建っているので、すぐに東の家だと分かった。そして…。
「…電気がついてる。……もしかして、東の家に皆いるのか…? よし、行ってみるか…」
 電気の付いている家は近くを見る限り他には無かった。零音の家は電気を消していたし、雪の家も消えていた。ついている家は二、三軒あったはずではあるが、朝霧が消して回ったのだろう。
 零音は、朝霧の言っていた通り、東の家のインターホンを押してみた。ここに籠城しているのなら、声を聞けば開くはずだ。
「朝霧、いるか…?」
 …しかし、反応はない。インターホンを鳴らした音はしたのだが、…中に通じているような気配がなかった。
「……? …ここじゃ、ないのか…」
 零音は、不安に駆られながらも、扉を開けようとした。しかし、扉には鍵が掛かっていて、開くことはなかった。…電気はついていて、鍵も掛かっているのに、……朝霧達がいないなら、……。
「も、…戻ろう、ここじゃない…!」
 静かに、唸るように叫んで零音は走り出した。そう、ここに朝霧がいないなら、犯人がいるということしか考えられなかった。他の二人もそれを理解し、必死に走る。
 このシェルターの家はほぼ全て同じ構造で、インターホンも同じなので、三人ともどういう物なのかは分かっていた。受話器を取らなければ外の声は聞こえないのだ。だからボタンを押しただけでは、零音の声は聞こえなかったということ。だからもしかすれば、犯人が仲間の誰かだと勘違いしてくれるかもしれない……それを祈った。
 そして奇跡的に、追手は来なかった。……零音達は半ば死を覚悟しながら走ったが……誰も後ろから追っては来なかった…。
「……はは、…まさか…」
「…マジで逃げ切れたのかよ…?」
 緊張が解け、力が一気に抜けたのか、零音と水谷はその場にへたり込む。雪もそれを見て笑いながら、自分もへたり込んだ。
「嘘みたいだね…」
「ああ……」
 ラッキーだった、そう思ったが、やはり腑に落ちない。…本当なら一人くらい追っかけてくるのではないだろうか。…気にかかった。
「ま、命があってよかったってことでいいじゃねぇか。…な」
 水谷が、背中を軽く叩いた。その背中は、零音が抱えている東の。
「おっと、悪い」
 東はまだ眠っている。何をされたのだろうか。鼻のあたりには少し甘いにおいが残っているようで、…何か薬品を嗅がされたのだろうと零音は推測した。
 …しかし、命があってよかったと、水谷は言ったが、…実際には命は一つ失った。それがやはり、三人の心を締め付けた…。
「……今度は間違いないだろ。……朝霧の家の電気がついてる」
 顔を上げた零音が言った。少し進んだ先に、朝霧の家が建っている。電気がついていて、カーテンも閉まっていた。…ここに籠っているのは間違いない。
 さっきの様に、インターホンを押す。少し待っていると、受話器を取る音が聞こえたので、三人はほっと息をついた。
「俺だ、零音だ。開けてくれ……」
「あ、芹沢くんですね…。今開けます」
 鍵の開く音がしたので、零音はノブを回す。…今度は止まることは無かった。
 三人は、家に入るとすぐに施錠して、皆のいる部屋を探す。朝霧達は、廊下の奥のリビングにいた。
「おかえり。……あ、東くん、大丈夫なの…?」
 関先生は、零音がおぶっている東がぐったりしているのを見て、慌てて駆け寄ってきた。しかし、微かに息をしているので、安心したようだ。
「…よかった。無事に帰ってきて……」
 その言葉が、突き刺さる。無事に帰ってこれてなど、いない…。大切な仲間をまた一人、失って。結局、また失って帰ってきたのだ。…守れなかった。
「……河井さん、は……、……」
 朝霧が、途中まで言って、言葉を失った。そう。零音達が鍵を掛けて、三人だけで入ってきたということは、つまり…。
「……っ」
 零音も、水谷も、そして雪も。…何も言えない。ただ後悔し、皆に謝るほかない。河井を守れなかったこと。その、無力さを…。
「……そん、な……」
舞宮が、がっくりと膝をつく。片手を口に当てて、顔を歪ませて。いや、舞宮だけではない。誰もが、その事実に愕然とする。さっきまでの零音達と同じように、……二人が無慈悲に引き裂かれたことに、悲嘆する……。
「どうして、夢乃ちゃんだけが、…殺されたの…? 三人も一緒にいたのに…」
 関先生にそれを言われて、更に苦しくなる。そう、あの時、零音が軽率な行動を取ったから、河井は殺されてしまったのだ。…仲間を思っているからこそ、真っ先に飛び出し、周りの状況を把握しないまま、結果的に大切な仲間を、失うことになる…。
「……敵に嵌められたんです。…それと、犯人は、……一人じゃありませんでした」
「え…?」
 全員が反応する。今まで犯人は一人だけだと思い、あの男だけを何とかすればいいと思っていたのだ。…敵が増えれば驚くのは当然だ。
「じゃ、じゃあ…あんな怖い殺人鬼がまだ、もっといるってことなの…!?」
 零音は無言で頷く。それを見て、全員が口々に嘆く。助かるのだろうか、殺されるのは時間の問題なんじゃないか……。
「殺人者って言ってた奴が河井を殺したと思ったんだ。教室で物音がして行ってみたら、あいつがいたから。…ああ、あいつから銃を奪った」
ズボンの後ろポケットに直していたポケットを、無造作に床に置く。その重い音で、全員が、その銃が本物であることを理解した。
「……それで、あの殺人者を撃とうとしたら、…変な奴が出てきやがったんだ。青い髪で、全身白い服装をして、眼鏡をかけた奴だ。…そいつが言ったんだ。自分はメシア何番隊の『アネモイ』のノトスだとか…」
 アネモイ。何か意味があるのだろうか。よくよく考えれば、『tea』という名前も言っていた。チーム名なのだろうが、それも意味があるのかもしれなかった。
「…殺人者も言ってましたね。メシア、救世主…。やはり残された人々にとっての救世主という意味なんでしょうね」
「ああ、そうだな…。ノトスってのも、残された人々に祝福を…なんて言ってた」
 殺人者はともかく、ノトスはまだ人間らしさがあった気がする。多分殺人者は、ノトスに雇われた殺し屋か何かなのだろう。
「メシア、ティー、アネモイ……。なんでこんな謎めいた名前をつけるのか…。それとも、意味なんてないのか…?」
 零音は自問する。しかし、それは犯人にしか分からないことだ。今は考えていても、仕方ないことかもしれなかった。
「アネモイ……」
 朝霧は考える。何か知っているのだろうか。しかし、そんな単語を生涯聞く人はあまりいないだろう。記憶にあるというなら、一体何を見たり聞いたりしたのだろうか。
「……夢乃ちゃんのことは、……残念だったわ……。でも、零音くん達を責めたりはしないわ。悪いのは全部、…メシアなんていう組織なんだから…」
 関先生は、そう言って、零音に笑いかける。…悲しげに。零音の目が、熱くなる…。
「…俺、東を寝かせてきます」
 すぐに零音は後ろを向いて、寝室に歩いて行く。…涙を見せたくはなかった。
 その足音が聞こえなくなってから、関先生は呟く。
「…馬鹿な子ね、まったく」
 優しく、笑いながら。
 

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