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自作の小説等を置いていったり、読了した本の感想をほんの少し書いたりしていきます。
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#4.Rondo _疑心の矛先_3



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 校門を超え、教室が窓から見える。どうやら中には誰もいないようだ。殺人者はどこかへ行ってしまったのだろうか。
「ついでだ、何か使えそうなものを持っていこう。相手は銃とナイフを持ってた。気休めでも、何か持っておかないと」
 零音達は教室に駆け込む。廊下にも誰もいなかった。ここで一旦小休止をとることにする。
 教室の中には、黒板に貼り付ける大型の木製定規がある。籠城の時には、戦うつもりは無かったので置いておいたが、今は必要だ。こういう物があれば、一度か二度とはいえ、ナイフでの攻撃は防げるだろう。…銃ならどうしようもないが。
「…うん、大丈夫。いざという時は、頼りになるはずだ」
 教室と職員室の安全を確認した後、四人は使えそうな物を探した。その結果、カッター、調理用の包丁があった。凶器にはなるのだが、短いため不利だ。零音はそれを水谷と雪に持たせ、自分は定規を持つことにした。なるべく長い物を持っていた方が、犯人と間を取れる。…包丁は水谷の母親のものだったので、水谷から異議はなかった、
「……しかし、東は何処行ったんだ…。ここにいないってことは、後はトイレを探して…そこもいなかったら学校にいないってことだな…」
 東どころか、学校には殺人者もいない。…静まりかえっている。…どういうことなのか。そんなにすぐに殺人者はどこかへ行ってしまったというのだろうか。
 四人はトイレに向かう。男子トイレを見れば、木戸が倒れていて、やはり河井には辛い光景だった。…しかしあるいは、河井が来た理由は、ここに来たかったからかもしれない。彼女は木戸を見下ろし、顔をしかめる。
「……ごめんね、こんなところで一人にして。…もうちょっと、待っててね……」
 河井が木戸の隣に座り込み、冷たくなった手を握り、言う。…それを静かに三人は見ていた。彼らにかけられる言葉は、なにもない…。
 その時、四人は聞く。教室の方で何か物音がしたのを。…何の音か? いや、それは、今は関係なかった。…音がしたということは、そこに誰かがいるということ…。
「いくぞ!」
 零音が走る。東か、殺人者か。はたまた別の人物か。誰がいるかは分からないが、歩いてなどいられなかった。東の安全がわからないと、心臓の早鳴りは止まないだろう。早く安心したかった。だから、彼は走る。鼓動に突き動かされる様にして。
 教室に駆け込んだ零音だが、そこには誰もいない。そしてどこにも変化を見つけられなかった。端に寄せた机と、散乱したチョークの粉と…。
「…誰がいたんだ、…何処に行ったんだ……」
 殺人者が隠れているかもしれない。気を抜くわけにいかず、零音は定規を構えながら、ぐるりと回りを見る。しかし、やはりどこにも気配はなかった。
「……?」
 音は教室からしたわけではないのだろうか。何も変化がない以上、ここには誰もきていないだろう。
 なら音はどこからしたのか。零音は、割れた窓から外を見る。顔を出して下を向けば、…そこには、倒れている一人の少年の姿。
「あ、…東…!?」
 零音はすぐさま、窓から飛び出て東を抱きかかえる。東は仰向けに倒れていて、服や靴に汚れなどがなく、誰かに運ばれてきたのだろうことが分かった。
それを見て、死んでいると、そう諦めたのだが、……東は、息をしていた。
どうしてだろうか? 犯人に運ばれたのなら、生かして返す理由はない。こんなに丁寧に、仲間の元へ返すことに利益はないはずなのに。
「お、おい、東なのか? 白井、東がいたぞ!」
水谷が、窓からなんとか外に出てくる雪に言う。雪も、それを聞くと東の傍に駆け寄ってきた。三人が東を覗きこむ。
「…気絶でもしてるみたいだ。…なんにせよ、戻ってきたことは良かったが…どうして生きてるのか、不思議だな…」
 水谷が鼻に手を当て、呼吸を確認するそして零音と同じように、首をかしげて不思議だ、と言った。
「まぁ、戻ってきたのはよかったよ……。本当に心配した…。ずっと塞ぎこんでたから、最近東くんの元気な顔、見れなかったし……。そのまま死んじゃったりしたら、ほんとに……」
 雪は、おどけながら笑う。目から涙が溢れてくるので、それを人差し指で拭いながら。零音も水谷も、それを見て笑い合った。
「さて、…それじゃ朝霧達が籠ってる場所を探すか。東をかついで行かないといけないのが辛いな……。……?」
 そう言えば、どうして彼女はまだここに来ていないのだろうか…。零音は、気付く。
「な、…なぁ、雪。…河井は……」
「えっ……、…ぁ……」
 雪が目をやるのは、校舎内。要するに、河井はまだ、校舎の中にいる…。
 だけど、どうして彼女は零音達について来なかったのか……。それは、考えれば、簡単なことだった…。
「河井、くそっ…!」
 そう、河井が木戸に好意を寄せていたことはわかっていたはずだ…。だから、彼女が木戸の所でずっと泣いているなら、その間は誰かが傍にいてあげなければいけなかったはずなのに…!
 零音はまた、教室に飛び入り、廊下へと走る。そこには、もう河井の姿が…。
「河井! おい、大丈夫か!」
 河井は、廊下の突き当たりに座りこむように、足を投げ出すように倒れていた。ふと見れば、疲れて座っているようにも見える。だから、零音は肩を何度も揺すって返事を求めた…。
 けれど。彼女の体は、揺らされると、壁に沿ってゆっくりと、倒れて…。
「う……あ………」
 彼女の腹部から、だんだんと紅いものが滲み出て、それが服を染めていく。それは今まさに、河井が殺人者に、…殺されたという、証…。
「河井いい! ううう…っ! どうして…ッ」
 殺人者は、どうしてこの二人を殺したのか…。どうしてこの二人が殺さなければならなかったのか。なぜお互いを思い合っていた二人が、こんな風に、残酷な結末を、迎えなければ……。
「か、河井……!」
「夢乃ちゃん…!」
後から走ってくる二人も、その結末に愕然とする。受け入れ難いその最悪の結末に、…悲鳴を上げる。あるいは、罵倒する。
「夢乃…ちゃん…! うう…! なんで…」
「最低の…野郎だ…! どうして、二人が、…こんな風にならなきゃいけないっていうんだよ……!」
 雪は河井に抱きついて、咽び泣く。いつも楽しくお喋りしていた、気の合う仲間。…色めいた話もし合っていた。何でも話すことのできる、そんな、本当に気の許しあえる仲間だった…それなのに。
 水谷は、怒りをぶつける。零音と水谷は、こんな風にしか、悲しみを表現できなかった。壁を殴り、そして、零音の胸をどんどんと叩く。零音は、その悲しみの深さを、…痛みで感じ取る…。
「あいつは……最悪だ。先生が言ってたな。…犯人は、…残された人々っていう、悲しい人達かも知れないって。……そんなんじゃ、ねえじゃねぇか…。あの野郎は、人を殺して笑ってるような、狂った奴だ……。…くそッ…絶対に殺してやる…! 俺達の大切な人を、これ以上殺させるかよ…!」
 激情すれば、後先を考えずに行動してしまう。それが零音だった。…零音は、ただ怒りに身を任せ、走り出す。…向かう場所などなかった。ただ、殺人者を殴りたかった。いや、殺そうとまで思っていた。それほどまでの怒りを爆発させ、彼は走る。
「…!? 芹沢、待て! 行くな!」
 水谷は、突然走り出した零音に困惑しながらも、その服を掴み、引き戻そうとする。…しかし、間に合わない。
「芹沢!」
 水谷は、零音を連れ戻したかった。しかし、雪がまだ泣いている。このまま孤立させては、危険だった。だから、叫ぶしかない。止まってくれ、と…。
 …水谷は、僅かな間で考えを巡らせていた。河井の死亡状況について。
 どうして河井は突き当たりで殺されているのか。それは、殺人者の性格を予想すれば理解はできた。…ここまで追いつめて、殺したのだろう。あえて銃を使わなかったのも、弄ぶためだったと考えることができる。しかし、…腑に落ちない。どうして追いつめられていく河井が、悲鳴を上げなかったのか。そして、…ここに微かに残る、葉巻や煙草のような臭い…。
「芹沢っ!」
 危ない。誰かが俺達を狙っている。
 その声は、零音を止まらせることはできなかった。

 …しかし、零音は立ち止まる。そこに、人影が見えたからだ。教室の中にいる人物。その姿に、零音の顔はだんだんと、鬼のような形相になっていく……。
 教室に入った零音は、その名を呼ぶ。
「…殺人者……」
 名前で呼ぶのも馬鹿馬鹿しかった。その男は、その名前を聞くだけで何かしらの優越感に浸っているようだったからだ。
「…ふう、仕事だっていったんだから、普通にやらせろよ…。つまんねぇな」
殺人者はナイフを振る。そのナイフには血が付いていて、振った瞬間に床や机に血が飛んだ。
そのナイフは、どうしてかさっき教室に入り込んできた時の物とは、違うようだった。柄の色が少し違うようだ。
「…お前は、何人殺せば…ッ、気が済むんだ…!」
 しても無駄な質問かもしれない。しかし、その言葉に怒りを込め、ぶつけることで、零音は恐怖を打ち消す。
「何人…? 全員だよ。それくらい分かるだろう? 当然のことだ」
 殺人者は、目を細めて零音を見る。それは挑発。口元が歪み、嘲笑しているのが分かる……。
「イカれてやがる…。……お前を、…殺す。仲間の、両親の、仇だ…ッ。…俺達は、生きてここを出るんだ…!」
 零音は、定規を構えて殺人者を見据える。定規如きで殺人者を倒せる気はしない。しかし、隙ができれば相手の武器を奪うことができる…。
「ハッハハハハ…! それで戦うって? ハハハ…」
笑われるのは当然だった。明らかに歩が悪い。しかし、零音は怖気づかない。殺人者を殺さなければ、この戦いは終わらない…!
「今度は楽しめるといいけどな」
「うるせえ。それ以上喋るな」
 互いに走り込んで、武器を振るう。定規の方が長く、両手で持っていたため、零音はナイフに当たらず、殺人者は右手に定規が打ち込まれた。結構な痛みのはずだ。
 間合いの長さは、予想以上にプラスとなった。流石の殺人者も、躊躇わずに切りかかることはできないらしい。少しの間、睨みあう。
 そして、殺人者が動いた。今度はナイフで突き刺そうとしている。零音は寸前で右に避け、尻餅をついた。
 こうなると不利だった。殺人者は立ち上がろうとする零音に切りかかる。二度、定規で防いだが、その力強さに定規にヒビがはいる。三度目は受けきれない、そう思い、右に転がる。
「どうすればッ…」
間髪を入れずに、何度も殺人者は切りかかってくる。やはり、差は歴然だった。相手は人殺しで、こちらは、ただの学生なのだから…。
 しかし、零音は諦めない。何度も殺人者の攻撃を避ける。…何かチャンスが来ることを願って。
 そして、それが来る。殺人者が、右手を大きく振りかぶり、縦に零音を切り裂こうとする…!
 零音はそこで、前に滑り込み、ベルトに手を伸ばす。殺人者のナイフが空を切る。そして、そのまま転がった零音は殺人者の方に向き直った。
「……!」
殺人者は、動けない。零音の手には、しっかりと構えた銃があった。
この中には間違いなく弾がある。関先生を撃とうとした時に弾を替え、そこから一発も使っていないだろうから。
「…やるね……こいつは負けたな……」
 ゆっくりとナイフを捨てて、…殺人者は手を挙げる。しかし今だ笑顔を見せる彼が、零音を苛立たせた。
「降参しなくていいぜ。どうせお前は生きて返さない。お前の殺した人の苦しみと、残された俺達の苦しみを、味わえ…!」
 零音は引き金を絞り込む。ゆっくりと、…ゆっくりと。この一発で全て終わるように、願って。
「一人で遊んでるから、そうなるんですよ。ハハハ」
 どこからか声がした。それは、知らない声。しかし、聞いたことがある…そんな気もする。……男の声だった。
「うっせえ…。油断してたんだよ」
殺人者が、気に食わなさそうな顔をして、その声の主に言った。
 廊下から姿を現すのは、白いマントを身にまとった、男の姿。まるで神話をかたどった様に、その男の姿は、神秘的。
 服も、ズボンも真っ白で、髪は青く染められていて、眼鏡をかけていて。そんな男がここにいるのは、全くの場違いのように見える。
 しかし、彼もまた、この戦場に立つ一人の駒…。
 零音は理解する。
 この男は、……敵だ。

 風がなびいた気がした。
 

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