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自作の小説等を置いていったり、読了した本の感想をほんの少し書いたりしていきます。
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#2.Discord_戦場への誘い_3

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 皆の眠気を誘う五時間目の授業も終わり、終礼の時間となった。木底靴の音を軽快に鳴らしながら、関先生は教室に入ってくる。その手にはプリントがあった。
「皆、今からプリント配るから、家の人にちゃんと渡してね」
 関先生は、前の人から順番に、一人ずつプリントを手渡しする。クラスの人数が八人しかいないので、この学校では当然のことだ。
 子供たちは、今のことを考えて、例の事件に関するプリントだろうと思っていたが、それとは全く無関係の内容だった。
「授業参観………ねぇ。…はぁ」
 零音は溜め息をつく。彼にとって授業参観とは、親の前で、自分が普段いかに授業を真剣に受けていないかを知らしめる苦痛の時間でしかない。参観の度に親は関先生に、どうかもっと指導してやってくださいと頼み込むので、顔が紅くなって仕方がなかった。
「零音くん、今回はしっかりしないとだめよ? 先生も困るんだから」
関先生がそう言うと、教室は笑いに包まれた。これだから嫌なんだと、零音は顔をしかめた。
「はーい…」
全員がプリントと教科書、ノートを全てカバンにしまう。そんな音に混じり、職員室の扉の閉まる音が聞こえた。
「…? まぁいいか。じゃあ、号令は…」
関先生が、黒板の日直の欄を見る。
「じゃあ、日直の東くん、号令を――」
ドサ、ドサ…、そんな音が聞こえた。重たい本がいくつも落ちたような音だった。零音も、他の全員も、東が本を落としたのかと思ったが、東は何も落としていなかった。なら、音はどこから聞こえたのか。
「…やっぱり職員室かしら? 見てくるから、皆ちょっとまっててね。すぐ戻るわ」
靴を鳴らし、先生は廊下を速足で歩いて行った。
「…この状態で待機って言われてもな……」
全員、起立してあと一歩で下校という状態で待機と言われたので、なんとももどかしかった。
「先生についていって、何もないならそのまま帰りましょうよ」
珍しく、朝霧がそう提案する。人に言われたことは素直に聞くのが朝霧の性格だと全員思っていたので、少し驚いたが、皆にとっても悪い案ではなかったので、そうすることにした。
「じゃ、廊下で号令してさよならってことだな。行こうぜ」
 零音が教室を出ると、全員が後に続く。やはり皆、心配からか、ただ遊びたいからか、早く帰りたいようだ。
 たちまち廊下は生徒で大混雑する。待機といったのについてきた生徒を見て、関先生は呆れた。
「なんでついて来てるのよ。…まぁいいか。…どうしてか鍵がかかってるのよね…」
 職員室の扉は閉ざされていて、内側から鍵がかけられていた。それを開けることができるのは、関先生の持っている専用の鍵だけだ。他の先生はずっと職員室にいるので、朝来たら、鍵を関先生に渡すということになっている。
 その鍵は、普段使わないものなので、スーツの胸ポケットに入れているらしく、取り出すのに時間がかかっていた。
「あった。……中でなにやってるのかしら?」
関先生は、鍵穴に鍵を挿しこんで回す。ガチャ、という音と共に扉は解錠された。
その扉を開くと、中の様子が明らかになる…。
 最初は、誰もが散らばった本に目をやった。関先生の机の本だろうか…それらが床
に散乱していた。関先生本人がさっきまで教室にいたのだから、こんな風になることはないはずなのだが。彼女自身もどうしてその本が落ちているのが理解できないようで、誰がこんなことを、というような目で室内に目線を上げる……。
「ひっ……きゃ、きゃあああああ!」
「うわあああっ!」
何人もの生徒が高らかな声を上げる。いや、声を出さない者はいなかった。その光
景が目に入った時、何よりも人間の本能が、その行動を反射的に起こすのだから。
 全員が見つめるその先には、二人の大人が倒れていた。校長先生…朝霧の父親と、給食調理員…水谷の母親だった。二人は散らばった本と同じように無造作に転がっていて、間違いなくそれが冗談でも何でもなく、事実だということを物語る。
 本にはうっすらと、そして時間が経つにつれ色濃く、紅い染みが広がっていく。それが何であるか、もう理解できない者はいない。……血だった。
 朝霧と水谷は、すぐさま親の元へと駆け寄る。まだ生きているに違いない、きっとそう信じて。…あるいはもう、半分は諦めているのかもしれないが…。
「父さん、しっかりして…! 返事して!」
「母さん…、大丈夫か、母さん!」
その体を抱いて、体を揺すって返事を求める。しかし、返事はない。口元から出て
くるのは、あくまでも紅い血だけ……。
「…畜生……どうしてッ…」
 水谷が声を震わせ、歯を食いしばりながら嘆く。床に何度も拳を打ちつけ、もう戻らない大切な人の死を、嘆く…。
「…なんで…こんな…ッ」
 零音には重なって見えた。…あの時の自分と同じように。必死に優磨に返事を求めた、あの日の自分と同じように。
「シェルター事件の犯人だ、きっとそうだ! …あんなに皆警戒してて、こんなことになるなんて…最悪だ…」
 朝霧も、顔を押さえて父の死を嘆いた。表情は分からなかったが、…どれほど悲しく辛い表情をしているかは、誰にも予想できた…。
「殺して…やるッ…。ぜってぇ犯人を、殺してやる! どこだ、どこに逃げたんだ…!」
水谷は、もう生きてはいない母親をまた、優しく床に寝かして、職員室を駆け回る。隅に隠れているのではないか、そんなことを思いながら。…しかし、犯人はどこに
もいない。
「…え、…? あれ?」
この場には似つかわしくない、少し気の抜けた声が聞こえる。だから全員は、その声を発した、関先生に目を向ける。
「……ご、ごめん…え、でも…」
「なにがあったんですか、関先生?」
 零音が聞く。関先生は、窓を見つめてしばらく茫然としていた。…そして、生徒の方を見て、…言う。
「こ、この窓…鍵がかかってる…」
 指差した窓には、確かに、ワンタッチ式の簡素な鍵が、かかっていた。…それはつまり、この窓から、誰も出入りをしていない証…。
「は、犯人はここに隠れているかもしれません! 注意して、探してください!」
 朝霧が金切り声に近い声を出した。自分の親を殺した犯人を捕まえたいという怒りと、もう誰かが死ぬのは許されないという悲痛な気持ちが入り混じったような、心に響く声…。
「くそ、どこに隠れてやがんだ!」
 水谷が乱暴に、本を蹴り飛ばしながら探しまわる。それにつられる様に、全員が室内にいるかもしれない犯人を探す。あるいは木戸や河井は、体を寄り添わせて恐怖をできるだけ薄れさせようとする…。隅々まで調べたが、人間が隠れられるようなスペースは、この職員室のどこにもなかった。
「…ど、どういう…ことだよ」
 水谷は、相当物に当たり散らしながら犯人を捜したので、息を荒げていた。部屋がさっきよりも散らかったが、結局犯人は見つからない。
「…おかしいです…どうして、いないんでしょう…」
 ようやく少し落ち着きを取り戻した朝霧が、再び周りを見回す。目に入るのは、血に濡れた本か、机か、…死体だけ。
「…皆、少し冷静になろう…。もしかしたら、何か見落としてるかもしれない…」
 舞宮が口を開く。彼女が一番静かに状況を受け止めていたが、彼女もやはり、手も足も震えていて、…相当にショックを受けているようだった。
「…そう、ですね…。すいません。…父さん、…必ず仇はとるから……」
「俺もとる。必ず、父さんの仇を…」
 二人は、拳をぎゅっと握りしめる。…そして深呼吸を何度かして、落ち着きを取り戻そうとしていた。
「父さんは、…銃で撃たれて殺されています…。胸をしっかり、狙われてました…」
 朝霧は、それを口にするのも辛いであろう。しかし、全員に把握してもらうため、彼は状況を述べる。水谷も、それに倣った。
「…俺の母さんは、…何かで、…多分ナイフで、刺されてるみたいだった。…間違いなく胸を狙ってる。…多分、叫んだりしないように、即死させたんだ…」
 朝霧の父親は銃で、水谷の母親はナイフで殺されている…。凶器が違う殺人が同室で起きているということが、誰も理解できなかった。偶然か、それとも何か意味があるのだろうか。
「…凶器が違うなら、…犯人は複数犯、と考えることもできる…けど」
口元に手を当てて、舞宮が言う。それならば確かに、凶器が違うということにも筋は通った。ナイフと銃を持った単独犯が二人を襲ったことも考えられるが、二人の距離が自分の机とそう離れていないということと、叫び声が全く聞こえなかったということから、二人は犯人に気付くと同時に殺された可能性が高かった。なので単独犯では、二人を瞬間的に殺すということは、まずできないだろう。プロでもない限り。
「…まぁ、あくまで仮定ですから、…あまり意味はありませんが…。とりあえず、…注意しなきゃいけないですね、…犯人はまだこのシェルターにいて、…これから全員を殺そうとしているんでしょうから…」
 朝霧は目を伏せて、皆に言った。父親の死体に背を向けて…。
「…犯人……」
零音が呟く。…そして、だんだんと、汗が浮かび、手も震え、足も震えだす。気付いたのだ。自分たちが、まず確認しなければならなかったことを。そして想像してしまった。最悪の、結末を…。
「お、…おい…シェルター事件の、犯人なら…はやく、はやく家に戻らなきゃ、はやく親に言わなきゃ! 全員でここに固まらなきゃ、次は誰かが狙われる殺されるぞ!」
 早口で捲し立てた零音は、そのまま他の全員のことを気にすることもなく、一人全速力で、家へと駆けもどった。それを見て、他の生徒たちも自宅へと走り出す。…まさか、自分の家族もこのようなことになっているのではないか、そんな思いに駆られながら、今なら間に合うかもしれないと思いながら…!
 どうしてもっと早くに気付けなかったか、いや、気付いてももう遅かったかもしれない。そしてその時遅いなら、きっと今はもう遅すぎるのだ……。
「父さん! 母さん!」
 零音は自宅の扉を乱暴に開ける。玄関には明かりがついていなかった。いや、…廊下にも、その奥のリビングにも…。
「…と、父さん…母さん?」
 暗い室内に向かって、両親を呼ぶ。家の中に入ると自然に、動きが慎重になる。…犯人がどこかに隠れているかもしれないという思いと、…もしかしたらこの奥に、認めたくない光景が待っているかもしれないという思いが、…足どりを重くさせていた。
 そしてその想像は、…やはり裏切られることはない。裏切ってほしいと、どれ程に願おうとも。
「………ぁあ、…ああ、ぅ……」
どうしても堪えきれず、零音の口から嗚咽が漏れる。…目の前には、折り重なるように倒れた、二人の…死体があった。
「父さん…っ、…母…さん……」
 零音は、両親の元へ駆け寄って、その体に抱きついた。体に血がつこうと、気にもとめず、ただ力強く、その体を抱きしめた。
 ずっと、ずっと一緒だった。毎日ここで、他愛のない話をして盛り上がった。成績のことは嫌だったけれど、それでも、楽しい話には違いなかった、今の彼には、そう思える…。
「…まだ、話したいこと、たくさんあるんだよ。…これからは勉強、がんばるとかさ…これからは、もっと、もっと親孝行も、したりして…さ。もう、五十歳になるんだからさ、肩とか揉んであげたり、そんなこと…そんなこと、……したかったのに…っ」
 まだまだ、別れの時ではなかった。これからも、家族でたくさんの日々を過ごしていくはずだった。…どうして今日、別れなければいけなかったのか。どうして今日、引き裂かれなければならなかったのか…。
「…どうして…ッ、どうして、こんなことになっちまうんだよ……、ぅううっ…」
 ただ、涙が止まらなかった。零音は、両親の体に顔をうずめて泣いた。…涙が枯れそうになる程、長く、長く…。
 そして、やがてその悲しみは、流した涙の分だけ、強い、強い怒りとなって、強い、強い決意となる。
「………絶対。仇をとる。そうさ、許せるはずがねえ。絶対に犯人を捕まえて、…ぶん殴ってやる。それで警察につれていく。…いくつシェルターを潰したかなんて知らねえ。俺の大切な人を殺したクソ野郎は、…絶対に、俺が捕まえてやる…!」
 朝霧や水谷のように、彼もまた拳をぎゅっと握りしめる。…その拳で犯人を殴る。その強い決意を感じさせる。
 両親の体を仰向けにして、並べる。無造作に折り重なっていた時よりは、ましだろうと思ったのだ。…そして、手を合わせた。
「…今まで、ありかどな。父さん、母さん。…絶対生き残るから。犯人も、捕まえてみせるから」
 溢れてくる涙を何度も拭って、…ゆっくりと零音は立ち上がった。今生の別れであり、ここから立ち去るのは辛いが、それでも…行かなければならない。
「犯人を、捕まえる。…そしてこの戦場を抜け出すんだ」
 もう世界は血に染まってしまった。幸せな世界は一瞬で壊れてしまった。だからそのひび割れを、これ以上広げてはいけない。そう心に強く誓い、零音は、…両親に背を向ける。
 …ふと、机に目がいった。暗い室内で、見え辛かったが、何かが置いてあった。
「………?」
 零音は、その机の上の物を手に取る。…一枚の紙切れだった。最後の力をふりしぼり、両親が零音に示そうとしたのだろう。血の跡がついている。それには、こう書かれていた。

『4、9と名のつくシェルターは、犯罪者及び、元服役者の隔離シェルターである。懲役七年以上の罪を犯した者は、ここに移送され、永住することとなる。外部へ出ることは許されない。それを了承しなければ、移送制度は適用されない』
 

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――異色ミステリ。その日は幸せな一日だったのか。主人公、叶田友彦は、自らに問う。
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