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自作の小説等を置いていったり、読了した本の感想をほんの少し書いたりしていきます。
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四章、眠る真実……其の三

 

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 神田はズボンのポケットに手を入れた。だが、途中で思いとどまったようで、何も出さなかった。
「っと、禁煙だな」
 と呟く。
「……事件は、五月十二日に起きた。これは言ったな。その朝、いや正午辺りか。一人の遺体が見つかったんだ。それが、事件の始まりだった」
 一人の遺体。それは、間違いなくあの六人の内の誰かだ。最初の犠牲者。それは、誰だったのか。
 ふいに、青白い彼女の顔がよぎった。
「見つかったのは、波田歩実。死因は刺殺だった。当然、凶器はあのメスだ。だが、少々発見場所がおかしかった」
「波田……ですか」
 やはり、そうなのか。僕の夢は、決して全てを偽って、幸せに変えたわけではないのだ。僕の経験したことを歪曲させて出来あがったのが、あの夢なのだ。だから、どこかが重なる筈。あの夢と、現実が、どこかしらで交差し、重なっている筈……。
「おかしいというのは、何故?」
「ああ。実はな。あの日は吉川の奴が、町の中心部の方で講座を開くとかで、ここら辺に住んでる人は、結構それを見に行ってたんだな。あいつ、人望があるというか、何というか。まあ、他にも色々、催しがあったみたいで、そっちがメインの奴らもいただろうけどな。とにかく、ここらの人の多くが朝の内から外出してたんだ」
「そうだったんですか。……確かに、吉川先生は、この近辺では唯一のお医者さんですからね」
「全く、あいつは何でこんな所に病院なんか建てたんだか。ま、いいや。それで、朝は川沿いに歩いていく人が結構いたんだよ。その通行人の何人かが、こう証言した。あの日、波田歩実が佐倉家にはいっていくのを見たってな。いや、それだけじゃないぜ。他にも、茂木に天地、野島に君。七人全員が入って行ったんだという」
「……ええ。確かに、僕らは佐倉の家に集まったんだと思います。僕の歪曲した記憶でも、そうなっていますから。……その後多分、僕らは、土手で遊んだんだと思います。七人で」
 そう言った時、神田は両目を閉じ、眉間に皺を寄せた。
「……それだ。叶田くん、それが違うんだ」
「え? な、何がです……?」
 違う。何が違うというのだろう。不幸か幸かではなく、他の何かが、違う……? それは一体、何なのか。
 ……まさか。
「六人だ」
「……」
「君達は、六人で遊んでいるところを、目撃されている。そこに、波田歩実はいなかったそうだ」
 何も、返す言葉が無かった。その言葉が、何故か罪の宣告のように聞こえた。……波田が、いない。僕らはあの日、あの土手で。六人で遊んでいたというのか。彼女がいないにも関わらず。あの場所で、楽しげにボールを追いかけ回っていたと……。
「天地光流が一人で走っていくのを目撃した人もいるが、決して波田歩実は一緒にはいなかった。つまり、彼は波田歩実をあの場所まで連れて行く、もしくは運んでいくということはしていない筈。しかしね。彼女は、君達が遊んでいた土手から、一キロ程度離れた橋の前で発見されたんだ。丁度、その土手を下ったところさ」
 一キロ。かなりの距離だった。走って数分はかかる。それに、そこにある橋は、波田は通らない筈だ。彼女はいつも、僕の家近くにある橋を渡っていた。所要距離は殆ど変わらないが、彼女はそこを通るのがもう習慣といってもいいくらいだったので、違う道を通るのはおかしい。それも、事件が起きた日に限って。……習慣化された道筋は、思いつきで変わったりはしない筈だ。それは、誰にだっていえる。
 波田が、どうしていなくなったのか。どうして僕らの遊んでいた土手から、一キロも離れた場所で、死んでいたのか。そして、何故死んでいたのが、普段通らない橋の近くなのか。……それが謎だ。
「……天地は、一人だったんですよね?」
「ああ。唯一その時動いたであろう容疑者なんだが。何も持ってはいなかったし、近くに誰もいなかった。……疑いたいが、何とも」
 きっと天地は、サッカーボールを取りにいっていた筈だ。彼の家は、波田が見つかった橋の近くにある。……もし波田が、自分の意志でその橋を渡ろうとしていたのなら、筋は通るのだが。波田が橋を渡っている時に、天地が波田を殺す……。しかし、それは何とも短絡的だ。自分の家の前で、自分しか疑われる人物がいない時に殺すだなんて。……この答えは、解決ではない。単なる辻褄合わせの暴論に過ぎなかった。
「天地は、サッカーボールを取りに行っていて、戻って来たのはかなり早かった筈です。……彼が波田をそこへ呼び出し、殺し、平然と戻ってきたとは思えません。……それに、メスで刺したなら返り血を浴びるんじゃないでしょうか。着替えをすることも考慮すると、時間が足りない気がします」
「……なるほど。サッカーボールを取りに、か。……それは、君の記憶が少しずつ戻って来ているということか?」
「いえ。歪曲した記憶の中の、正しい部分なだけです。全てが裏返しになってるわけじゃない。……だから、ここに関しては正しい記憶なんです」
「……ふむ」
 神田は少しばかり吟味したが、とりあえずその言葉を信じることにしたらしい。小さく鼻で笑い、分かった、と言った。
「それを信じたなら、事態は複雑な方向へ進んでいくな。……さて、どうしたものか。波田歩実の死体に関しては、謎のまま、と」
 彼は、親指を折り、次に人差し指を曲げ伸ばしさせる。
「次に、二つ目の謎だな」
「はい」
「二人目の犠牲者は、三ツ越嘉代子だったんだが。実はこの、三ツ越殺害の直後に茂木から電話があったんだ。いや、波田殺害時にも電話はしてたらしいが、朝は少々事故があって、留守にしてたもんだな……。この茂木の電話でやっと事件を知り、向かうことになったんだが。その時、茂木が妙なことを言ってたんだ」
「……妙なこと、ですか」
 二人目は、三ツ越だったのか。また、夢と現実が重なったような気がした。三ツ越、天地、そして僕。十字路での、あの追いかけ合い……。
「茂木は、犯人の目星がついていたらしいんだ。これから、自分が犯人だと思う奴を探しに行くと言っていた。そして多分、茂木は、行った先で、犯人に殺された……」
「……そんな」
「いや、この話はほぼ間違いないと思う。俺が電話であいつから聞いたし、あいつが見つかった場所が、町はずれの森の入口辺りという、一目につかないような場所だったからな。そういう場所に犯人がいると思い、向かった先で殺されてしまった……。そう考えるのが妥当だろう」
 これで三人。しかし、話聞いて行くと、だんだん違和感が湧いてくる。……そうだ、この殺人には、動機が見当たらない。茂木の場合など、勘付かれたから殺したというだけにしか思えない。そんな理由で、茂木は殺されたのだろうか。いや、茂木だけじゃない。皆殺されたという結末から考えて、他にもそういった、短絡的な犯行があったのではないだろうか。……滅茶苦茶だ。ばれないようにする為に、他の誰かを殺していき、最後には、誰もいなくなってしまうだなんて。……こんな考えは、酷過ぎる。
 きっと何か理由があるのだろう。僕は、首を軽く振って今の考えを消した。
「……二人目は三ツ越、三人目は茂木で、だな。……四人目は、天地光流だった。全員に共通してるが、死因はメスで刺されたことによる出血死だ。天地もまた、人気のない森の中で殺されていた。そのせいで彼だけ発見が少し遅れちまった」
「天地……」
「三つ目の謎なんだが、天地は何故、そんな森の中にいたのか。……茂木のように、犯人に心当たりがあったのか、犯人に誘いだされたのか……。少なくとも分かっていることは、天地は間違いなくその森の中で殺され、死体が移動されたということはない、ってことなんだ」
 つまり、自分から行ったにせよ、無理やり連れて行かれたにせよ、天地は生きている時に森へ入り、そこで死んだということだ。何故、森の中へ? 死体が見つかるのが遅い方が良かったのか。いや、波田は見つかり易い場所で死んでいたのだから、天地だけ見つかってほしくなかったなんていうのは変だ。
「少々理解できない、という程度のことだが、難しい謎だろ? これが分かればひょっとすると、がらりと事件の様相が変わったりするかもしれないしな。迂闊に捨てたりは出来ない謎ってわけだ。叶田くんは、何か分からねえか?」
「……駄目です。人並みのことしか思いつきません。僕の記憶の中に、それに対する答えか、せめてヒントでもあればいいんですけれど……」
「……そうだな」
 神田は、僕の頭に軽く手を乗せた。
「……記憶か。難しいもんだ」
「……ええ」
 少しの間があってから、彼は手を離す。
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――異色ミステリ。その日は幸せな一日だったのか。主人公、叶田友彦は、自らに問う。
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