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自作の小説等を置いていったり、読了した本の感想をほんの少し書いたりしていきます。
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九章 小さな呪縛……三


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 そして僕は、森から抜けて、茫然自失の体で、川沿いの道をふらふらと彷徨っていた。仲間たちと楽しく遊んでいたのが、たった数時間前。それが今、二人が死に、一人が行方不明で、二人が僕を疑っている……。ふざけた話だった。
 今日は、僕の誕生日だったんだ。
 それなのに、いったい何が起きて、こうなってしまったというんだ。
 いったい誰が、三ツ越を、天地を、殺したっていうんだ。
 いったい、どうして……。
 答えの出ない自問。それを繰り返しながら、僕はただ、歩き続ける。
 そんな時だった。
「……叶田、……くん」
 その声を聞いたのは。

「じゃあ、叶田くんは、やっぱり違うのね」
「……うん。断じてあれは、僕の仕業じゃない」
「……私も、そうじゃないかって思ってた」
 野島だった。彼女が僕の前に現れて、弱弱しいけれど、輝かしい微笑みを浮かべてくれた。そして、僕を安心させようとしてくれた。
 だから今、こうして僕らは、二人美鳥川の土手で話し込んでいた。
「……茂木くんもね? 最初は食って掛かったけど、きっと犯人は叶田くんじゃないって、言ってた」
「……本当に?」
「うん。……何だか、茂木くん……犯人を知ってるような口ぶりだった」
「……そんな……」
 では、茂木と犯人の間に、何らかの接点があるということなのだろうか。だとすれば、一体どんな接点が……。
 一つだけ思い浮かんだのは、三年前の、あの事故のことだった。
「茂木のお母さんについて、なのかな……」
「……どう、だろうね」
 三年前、美鳥川に落ちて死んだ、茂木の母親。
 それと今回の事件、何か関係があるのだろうか……。
「……もし関係があるなら、私……こう思うの」
「うん?」
「多分、あれは……事故じゃなかったんじゃないかな」
「え……?」
「だってね。茂木くん、私に心当たりがあるって言った時、とても怖い顔、してたの。……それに、茂木くん……」
 そこで彼女は、息を詰まらせた。しかし、声を振り絞って、後を続けた。
「……メスを、持って行ったのよ」

 僕らはまた、走っていた。川沿いの道を、出来るだけ早く。
「歩実ちゃんの死体まで見つかったって、本当なの!?」
「うん、十字路の近くの橋の上で。叶田くんが逃げるちょっと前だったのよ!」
 なら、死んだのは、波田、三ツ越、天地の三人になる。そして、残っているのは、茂木と、佐倉だけ……。
 時系列的に、波田、三ツ越が犯人である確率はないだろう。なら茂木は、天地か佐倉を犯人だと思い、探しに行ったことになる。
 そして、おそらく、そのどちらかは正解だ。
 どちらが正解なのだろう。天地と佐倉。二人の容疑者のうち、どちらが。
 そして、僕らの疑問は、驚くほど早く、氷解することに、なった……。
「ねえ、あれ!」
 野島が指差す。十字路の先だ。森の奥からゆっくりと歩いてくる人影が見える。それは、男だった。見るからに、負傷しているようだった。
「……あれは」
 茂木ではなかった。
 腹を押さえ、ゆっくりと歩いてきているのは、……苦悶の表情を浮かべた、佐倉だった。
「おい、大丈夫か!」
 僕は叫び、走っていく。佐倉は夥しい量の出血ながらも、決して倒れることなく歩き続けていた。まるで鉄の意志が、彼を一歩一歩突き動かしているようだった。
 それが何故なのか僕にはまるで分らず、ただ、彼を助けようとして、僕は彼の元へ駆け寄った。
 しかし彼は、僕の手を払いのけた。
「……お前だ」
「……え?」
 低く唸る声は、殆ど聞き取れなかった。
「……全て、お前が、原因だったんだ……」
 そして、何かが煌めく。
 瞬間、払いのけられた僕の手は、ざっくりと切り裂かれている。
 激痛が僕を襲った。
 それは間違いなく、三ツ越を殺した、あのメスだった。
「……お前、……!」
「お前が、すぐに死にさえしていればッ!」
 佐倉は息も絶え絶えに、けれども力強い意志を持って、僕に斬りつけてきた。僕は懸命にそれをかわす。腕は斬られたものの、佐倉と僕の負傷具合は雲泥の差だった。僕は佐倉の攻撃を、何とか全て切り抜けることが出来た。
 その攻防の中、佐倉は叫び続ける。
「お前が、死んでいればよかった……!」
「佐倉、お前がやったのか、全部!」
「そうだよ! 波田はお茶に入れた薬品に気づき、俺を問い詰めたからな! 心停止で川に流されればいいと思っていたんだ! なのにお前は、口ひとつつけなかった!」
「三ツ越も、お前が……」
「天地に始末させようとしたんだ、俺はあいつをずっと操ってきたからな……! だが肝心な時にあいつは、殺せなかった! だから俺が変わってやったんだよ!」
 天地は、哀れな被害者の一人に過ぎなかったのだ。佐倉を犯人だと思わせないための、目くらましとして使われたのだ……。
「あいつには、川に流した波田の回収を頼んだ。その後のことだったよ……。あいつはうっかりして、メスを手放しちまった。それが原因で、俺は茂木に、やられる羽目になっちまったのさ……」
 茂木にはやはり、犯人が分かっていたのだ。佐倉が犯人で、波田や三ツ越を殺して回っていたということを……。
「どうして、お前は……」
「決まってるだろう! 全てお前を殺すためだった! それだけのために、俺はあの医院から、メスも薬も盗んだってのに……。どうしてこんな何人も死ぬような羽目になっちまったんだよ……!」
「何で、僕を殺そうとした……!」
「羨ましかったんだよ、お前が! 僕がどういう生き方をしてきたか、お前に分かるのか!」
 最早、腕を振ることすら、困難になっていた。けれども佐倉は、狂ったように、メスを閃かせ続ける。
「俺は、あの子のことだけ思えていればよかった……それは、自由な心の筈だった……。なのにどうして、あの家に生まれたってだけで、三ツ越なんだよ……! それが、気に入らなかった……!」
 その目は、僕の後ろに向いていた。……僕の後ろで、戸惑っている、野島に。
 そうか、……お前は……。
「それが、……理由だったのか……」
 ふと、憐みを抱いた瞬間だった。
 僕は不注意にも、石に躓いて、倒れこんでしまった。
「……もう、何もかも終わりさ。なら、俺の全てが終わるのとともに、俺が最も憎んだお前の全ても、……終わらせてやる」
 佐倉が狙いを定め、最後の力を振り絞り、腕を振り上げる。
 僕は彼に圧し掛かられた状態で、動けなかった。
 ……駄目だ。そう、諦めかけたその時に。
 彼女は心を決めて、僕の元へ、走ってきた。

 野島。

「……の、じま……」
 佐倉の持つメスが、突き刺さる。
 それは、僕の体にでは、なかった。
「…………叶田くん」
「……野島……」
「……言いそびれてたけど……」
 彼女の吐く息が、かかった。
 口元から、血が流れる。
 僕の心も、同じだった。
 この目から、血の涙が溢れる。そんな気がした。
「誕生日…………おめでと……」
 彼女はようやくそれだけを言うと、硬い地面に頭から倒れ伏して、そして、動かなくなった。
 もう、息はかからなかった。
「……そう、か」
 男の声が聞こえる。
 もう、何の意味も無くなったような、殺伐とした世界で、
 大切なものを全て欠いてしまったような、モノクロの世界で。
 耳障りな、男の声が聞こえた。
「じゃあ、……俺も祝ってやるよ……」

――誕生日、……おめでとうってな……。

 そして僕は、世界を壊した。

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