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七章 真犯人の影……其の三

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 神田が来たのは、翌日の夕方頃だった。沈みかけの赤い陽が、彼の横顔を照らしている。その顔はどこか浮かないものだったが、その理由が果たして吉川先生に対するどのようなことを知ったからなのか、それはまだ分からなかった。
「よう」
 半ば調子の外れた声で、そう言う彼を迎え、部屋へと案内する。そして座布団を渡すと、すぐに座り込んで話し合う態勢に入った。
「……何か分かったから、ここに来たんですよね。……一体、何が分かったんですか?」
 そう聞くと神田は、
「ああ、分かったことは分かった。それも、二つな。二つとも、俺にとっちゃどっちも悪いことだ」
 そう言って舌打ちをした。
「二つ……」
「そう。一つ目は、事件当日の吉川医院関係者のアリバイについてだ。あの日吉川達は、町の中心部で講座を開いてた。それについてきっちり調べたが、アリバイはとてもはっきりしていた。……吉川達に、事件に関与する時間はほとんど無いと言っていい」
「……無いんですか、本当に」
「おかげで八方手づまり、といった感じになっちまったよ、一時はな。……ちなみに、詳しくアリバイについて話せば、吉川は全員の死亡推定時刻の範囲内でアリバイがあった。つまり、あいつは実行犯にはなりえない。他の看護師なんかについてだが、これもほぼ同様。講座は事件が終わる時間まで続いていた。ただ、谷あやめ他数名については、少し早めに講座を抜けているな。医院に少人数の看護婦を残していたんだが、それだけでは入院患者の面倒を見きれないからということだ。看護婦数名はまとまって医院に戻ったが、谷あやめだけは別行動をしていたらしい。その時のアリバイだけはないが、事件が終わったあとだろうから、彼女も実行犯ではないな」
 神田は早口でそう捲し立てて、そして最後にため息を吐き、黙り込んだ。
「……そうですか。じゃあ、犯人は吉川先生でも、谷さんでもない……。やっぱり、僕ら七人の中にいる可能性が高いってことに、戻ってしまったんですね」
「それが、悪いことの一つ目さ。それだけを聞くと、捜査は振出に戻っちまったようにも思える。だがな。……吉川医院について調べてみて、俺は一つ、重大な事実に気が付いたんだ。あの医院がたった一つだけ隠そうとしている、ある事実について……」
 その顔には、自らの旧友である吉川への、失望のような、あるいは軽蔑のような思いが滲んでいた。僕はそれに気づく。……彼が今から言わんとしていることは、吉川医院の、違法行為かそれに準ずるようなことについてなのだ。
「それは、……何なんですか?」
 僕は、恐る恐る聞いてみた。
 しばらくの沈黙の後、神田は意を決したように、
「はあ。俺には、あいつが何でそんなことをしてるのか、全く理解できなかった。人望も厚く、小さな医院で皆から慕われて上手くやっている奴なのによ。……叶田くん、君も気づいているかもしれないが、吉川医院には、一つ奇妙な点があるんだ。それは何か、分かるか?」
「奇妙な点……。……いえ、僕にはちょっと分からないです。診察してもらいに来る人が、少し多い気はしますけど、それはあそこが最寄の病院だからだろうし……」
「……いや、その言葉は、核心をかすってるぜ。そう、あの医院には、患者が多いんだ。……とりわけ、入院患者がな」
 神田にそう言われてみて、僕は初めて気づいた。……そうだ、確かに、あの医院には入院患者が多い。詳しくは知らないが、殆どいつも満室状態だというのを聞いたことがある……。
「あの医院の病床数が九だった筈。そのベッドがほぼ常に満床だった。こいつは少し奇妙だよな。医院なんて、出来る処置も少ないんだから、大抵は大きな病院に移るのを勧めたり、自宅で安静にしてるようにと勧める筈だ。常に患者を九人も入院させてるなんて、普通の医院じゃ考えられない。景楽町には、もっと中心部に行ったところに、大きな病院もあるんだから」
「……じゃあ……?」
「……あいつの所が何をやってるかは明白だ。ただ、それが事件とどう関係してるかは全く分からねえ。だから、俺は明日、あいつの所に乗り込んで、直接聞いてやろうと思ってる。……叶田くん、君はどうだ?」
 僕は。……そう、僕だって、真実を知りたい。いや、他の誰よりも僕こそが、この事件の真相について知りたいと願っている。だから、答えは決まっていた。
「僕も、行きます。連れて行ってください、神田さん」
 僕の言葉は、力強かった。たぶん、これまで神田に言った言葉のどれよりも。その答えを聞いて、彼は満足そうに笑った。
「よし、分かった。じゃあ行こう。行動は出来るだけ早い方がいい。明日の朝、迎えに来ていいな?」
「ええ、大丈夫です。……僕もそれまでに、あの人に尋ねたいことを考えておきます」
「ああ、そうしてくれ。……その問いで、事件の真実が分かるかもしれないからな」
 真実。傍にあるようで遠かった、あの日の。それは今も僕の頭の中で眠っているに違いないけれど、どうしても思い出せないもの。そしていよいよそれは、別の形で伝えられることになるのだろうか。
 ……吉川徹朗の言葉によって。


 

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