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翌日、僕は色々と検査室を周り、長い時間待機し、ようやく退院できることを告げられた。朝から検査が始まったのに、帰れることが分かったのは、午後四時頃だった。……それでも、やっと家に帰れる。それは素直に嬉しかった。
両親の顔が、無性に見たかった。心は既に、酷く打ちのめされていた。まずは、家に戻って安心したい。まだ安息の場所があることを、確かめたい。変わらない安息があることを……。
「それじゃ、退院だ。君の家族が持ってきてくれた荷物を整理してくるといい。衣服を少ししか使わなかっただろうけどね。……さあ」
吉川先生に急かされ、僕は一度部屋まで戻る。テーブルの下に大きめの鞄があった。この中に、日用品が詰め込まれている。
僕は何枚かの衣服を中に詰め、チャックを閉めて、鞄を背負った。そして一週間を寝て過ごした部屋を後にし、病院の玄関へ向かう。
「支度は出来たね。それじゃ、行こう。外で君の両親が待ってるよ」
「……はい」
吉川先生と並んで歩き、僕は病院を出た。……太陽が眩しい。夢の中では元気よく外で遊んでいた筈なのだけれど、その辺りは、身体は正直だということか。実際に太陽の光を浴びたのは一週間ぶり。とても暖かく、心地良い光だった。
「……父さん! 母さん!」
僕は、その姿を認め、二人の元へ駆け寄った。両親は僕を優しく抱きとめ、頭を撫でてくれた。
「……良かったな、友彦……良かった……」
「……うん、……うん……」
――良くは無い。またしても僕は思ってしまう。それでも、両親にとっては、僕が生きているだけで良かったのだ。……そう。僕は生きている。だから、まだ何かを成す事ができる。
「……ただいま、父さん、母さん。……僕は、大丈夫だから」
「……ああ」
それ以上を言う必要は無かった。二人とも、僕の思うことを分かってくれているだろう。……辛いけど、頑張るべきだ。記憶を取り戻し、真実を知るべきだ。そう思えた。僕だけが生き残った今、僕にしか分からない真実がある。それがはっきりと感じられた。……決心しよう。真実を暴くと。全てを、思い出すと。
「先生、しばらくは安静ですか?」
「いや、もう大丈夫だ。君さえ良ければ、好きなことをしていい。……まずは、彼らの所へ行ってやりなさい。それが一番だ」
「……そうですね」
まずは、皆に挨拶してからの方がいい。皆の家族にも、会わなくちゃならない。ひょっとすると暴言を浴びせられるかもしれないけれど、それでも、行かなくては。
「……ありがとうございました」
先生に一礼してから、僕は両親と共に歩きだす。
吉川先生は、それを静かに見守るのだった。
*
十字路を、右に曲がる。前に進めば、橋がある。……この橋は、夢の中で見た。丁度ここで天地が三ツ越を捕まえて、僕も捕まえられたんだっけ。そして今度は皆を捕まえてやると意気込んで、走り出したんだ。
土手沿いを進む。今は夕陽が映り、幻想的なオレンジ色となっていた。……この土手でサッカーをしたんだ。僕らは。……でもそれらは全て、ただの夢……。
……もう戻らない時に、思いをはせていても仕方が無い。……僕は、今からやらなくてはならないのだ。
……皆。僕は探すよ。この事件の、真実を。
例えそれが、どんなに残酷なものだとしても……。
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――異色ミステリ。その日は幸せな一日だったのか。主人公、叶田友彦は、自らに問う。
双極の匣
現在執筆中。四部編成の長編ミステリ。平和だと信じて疑わなかった村の、秘められた闇とは。
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